【5月29日 AFP】ロシア軍が占領したザポリージャ(Zaporizhzhia)市から脱出する直前、ビクトリアさん(43)は「ウクライナ市民として」絶対に欲しくなかったロシアのパスポートを申請すべきかどうか、苦渋の選択を迫られた。

 ロシアのパスポートがなければ、書類の申請手続きはできないと占領軍からは言われ、戸別訪問による検査時に取得していないとロシアへ強制送還されるといううわさも聞いた。

「ロシアのパスポートを取得したとしても、私はウクライナ人。私は何も変わらない」とビクトリアさんはAFPに語った。

 ウクライナのうち2014年にロシアに併合された南部クリミア(Crimea)半島と、親ロシアの分離派が実効支配する東部ドンバス(Donbass)地方では、以前からロシアのパスポートが発行されていた。

 だが昨年2月のウクライナ侵攻開始以来、ロシアのパスポート取得を促す動きは徐々に活発化してきた。AFPが取材した専門家や住民は、給付金の受け取りから就職や雇用契約の更新、医療機関の受診まで、日常生活のさまざまな場面でロシアのパスポートが必要だと語った。

 ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は4月、ウクライナの占領地域の住民に対し、来年7月1日までにロシアの市民権を取得しなければ追放処分を認める法令に署名した。

 占領地域に住むアリョーナさん(40)は「パスポートオフィスには行列ができている。友人は朝8時に行って、すでに48人待っていた。夜のうちから並び始める」とAFPに語った。

 ロシアがウクライナの占領地域で発行したパスポートの数を正確に把握するのは難しい。また実際に取得を希望するウクライナ人に渡った数を突き止めるのはさらに難しい。

 ロシア側は昨年9月にウクライナ南・東部4州の併合を主張して以降、8万通のパスポートを発行したと11月に発表している。