【6月25日 AFP】中国南部広東省(Guangdong)深セン市(Shenzhen)にある大芬(Dafen)村には、8000人を超える画工が暮らしている。

 かつて西洋名画の複製制作で知られたこの「油画村」は、今では1点数十万円の値がつくオリジナル作品を中国のアート市場に送り出している。

 村の画家たちは長年、欧州や中東、米国のバイヤー向けに完璧に近い複製を販売していた。最盛期には世界中で取引される油彩画の5分の3がこの村で制作されたものだった。

 だが、2008年の世界金融危機以降、輸出は減少。2020年には新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)で中国政府が国境を閉ざしたことにより、輸出は途絶えた。

 その際、諦めてアトリエを閉めた画家もいたが、ピンチをチャンスと捉えた画家もいた。複製ではなく自分自身の作品で、活気ある国内市場に打って出ようと考えたのだ。中国のアート市場は世界第2位の規模を誇り、2021年の売り上げは前年比35%増を記録した。

 独学で絵を学んだというチャオ・シャオヨン(Zhao Xiaoyong)さん。以前は、1点当たり1500元(約3万円)でビンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh)の複製制作に携わっていたが、今は、自身のオリジナル作品に最高5万元(約100万円)の値が付くと話す。

 チャオさんの家族は1997年に中国中部から大芬へ移って来た。最初は寝室が二つある狭いアパートを他の5人の入居者とシェアしていたという。

「当時、工場の組み立てラインみたいなシステムで仕事をしていた。目や鼻といった部分ごとにそれぞれ専門に描く画家がいて、それができたら手や足、着衣などを描く画家に渡すといった具合だった」

 チャオさんは何年も複製制作を続け、ゴッホが作品を描いた欧州を訪ねるだけの貯金ができた。オランダの首都アムステルダムにあるファン・ゴッホ美術館(Van Gogh Museum)や、名作「星月夜(The Starry Night)」を描いた場所として有名な南仏サンポール療養院(Saint-Paul Asylum)などを訪れた。

 かの地を訪れて「筆致をまねるだけでなく、ゴッホの世界に入り込むことができたと感じた」とチャオさん。「ゴッホの影から抜け出して、自らの考えや思いを形にしなければならないと思った」