【4月17日 東方新報】世界的な音楽家、坂本龍一(Ryuichi Sakamoto)氏の死去のニュースが報じられた4月2日、中国でも速報されるなど改めて関心の高さを物語った。坂本氏は、清朝最後の皇帝・溥儀(Puyi)の人生を描いた映画『ラストエンペラー(The Last Emperor)』の音楽を担当し、アカデミー作曲賞を受賞するなど中国との関わりも深かった。4月3日の中国外務省の定例記者会見で毛寧(Mao Ning)報道官が「坂本氏は、中国要素を取り込んだ多くの優れた作品を生み出した。彼は実際の行動により中日の友好交流に貢献した」とコメントしたことも話題になった。

 3年前、新型コロナウイルスの最初の感染拡大地となった武漢市(Wuhan)では坂本氏の死が報じられてから3日後の4月5日夜、長江(揚子江、Yangtze River)から吹くそよ風にのって映画『戦場のメリークリスマス(Merry Christmas, Mr. Lawrence)』のメーンテーマ「メリー・クリスマス・ミスター・ローレンス」のピアノの調べが響いた。武漢市(Wuhan)、北京市、東京都の3か所からの追悼生中継で、33歳の彭海涛(Peng Haitao)さんが、長江にかかる橋のたもとでピアノを独奏したのだ。

「路上ピアニスト」を自称する彭さんは、坂本氏の音楽に出会って人生が変わった一人だ。コロナ禍にあった2020年、坂本さんが演奏に武漢製のシンバルを使って奏でた生命の悲喜を感じさせる旋律に触れ、勇気と希望をもらったのだという。

「坂本龍一さんは私に力を与えてくれました。それを受け継いで伝えていくのが、私の彼に対する最大の感謝です。私は彼に救ってもらいました。もちろん本人と会ったことはありませんが、彼のやってきたことや音楽を通じて力をもらいました。それを伝えていきたいのです」

 彭さんは音楽の経験も無く楽譜も読めなかったが、坂本氏の音楽に触発されて独学でピアノを学び始めた。毎日8時間の練習を積み重ね、2年余りで十数曲をマスターした。そして2022年、彭さんは行動に出た。坂本さんからもらった勇気を、今度は自分が人々に伝えるために、ピアノをバンに積み込んで武漢のさまざまな場所に赴き、演奏を披露する活動を始めたのだ。

 最初の頃は、自分自身でさえ何のためにピアノを弾いているのかはっきりしなかったという。だが、次第にその意義を自覚していった。彭さんはピアノを通じて多くの人々に出会い、ピアノの音色に心を開いた人たちが、自分たちの生活や逸話などを話してくれるようになったのだ。そして、今は、自分が人々に安らぎを与えられることとてもうれしく感じているという。彭さん自身も、ピアノの旅を通じて武漢の人々は備える豪気、ロマン、不屈の精神を理解していったという。

 今後は、音楽を必要としているもっと多く人たちのためにピアノを弾こうと考えている。音楽は自分を癒やすと同時に、多くの他人をも癒やすことができるからだ。

「自閉症の子どもたちの学校や、独り身のお年寄りが住む地域、精神科病棟など、音楽を必要としている人のために弾きたい」

 坂本氏の音楽や精神が国境や世代を超えて受け継がれている。改めてご冥福をお祈りする。(c)東方新報/AFPBB News