【4月18日 東方新報】「スマホで文章を打ち込むだけで、月収2万元(約39万円)」

 中国・浙江省(Zhejiang)寧波市(Ningbo)で運送会社の事務員をしている宋芳(%%Song Fang%)さん(29)は、こんなSNSの広告に興味を持った。実家暮らしで月給7000元(約14万円)。何とか暮してはいるが、副業を見つけて収入源を増やし、一人暮らしをしたいと思っていたからだ。

「文章打ち込み代行業者」のダイレクトメールに連絡すると、素材として2分ほどの音声ファイルが送られてきた。中身はドラマの脚本のようだった。宋さんは本業で議事録をまとめることもあり、文章の打ち込みには慣れていた。音声素材は10分もかからずに打ち込むことができた。

 完成したテキストファイルを業者に返信してから数分後、「ピコン」と携帯が鳴った。文章打ち込みのアルバイト代120元(約2341円)が宋さんのアカウントに送られてきたのだ。

「こんなに簡単なアルバイトがあるとは思っていませんでした。10分の作業で120元獲得できたので、月収2万元も夢ではないと舞い上がってしまいました。今思うと、そんなにウマい話があるはずはないのですが…」

 宋さんは業者に「もっと仕事はありませんか?」とメッセージを送ってみた。すると、業者は「最初の納品されたテキストに打ち間違いと変換ミスが少しあったので、打ち込みの品質を上げるためにトレーニングを受けてほしい。トレーニング教材は有料だが、教材を買ってくれた人には優先的に仕事を発注するから確実にもうかる」と、教材購入を持ちかけられた。

 教材費は2万9800元(約58万円)。ネット上で業者の口コミを検索したが、ヒットしなかった。今にして思えば、毎回、会社名を変えていたのかもしれない。宋さんが業者のアカウントに送金したところ、その後、業者とは連絡が一切取れなくなってしまった。教材も送られてこなかった。詐欺だったのだ。

 宋さんが詐欺被害を同僚や同級生に相談すると、同じように副業に関する情報商材詐欺にあった人が何人もいたという。ある友人は、SNSフォロワー数200万人のインフルエンサーから「SNSフォロワーを増やすための個別レクチャー」をもちかけられて、レクチャーと教材費計6900元(13万円)を支払った。ところが、インフルエンサー本人ではなく「インフルエンサーの代理人」を名乗る人の動画が送られてきただけだった。

 しかも、その動画の内容は「海外でバズっているショート動画などのコンテンツをダウンロードして、自分のアカウントで投稿する」という違法な内容だったという。宋さんの友人も「まさか自分が詐欺被害に遭うとは」と絶句したという。

 ナレーション講座、ビデオ編集、ウェブデザイン…。中国ではSNS上に多種多様な「副業トレーニング」の宣伝があふれている。本業以外に収入源を得たい人や、副業を起業につなげたいと焦っている人が、この種の情報商材詐欺に引っかかりやすいという。中国大手ポータルサイトの苦情を検索すると、情報教材詐欺に関する苦情は1232件あった。その大半が「返金されない」との内容だった。

 中国で2022年に当局に寄せられた消費者相談の件数でも、情報商材サービスに関する苦情は、生活サービス分野、ネットサービス分野に続く3位と被害が目立つ。北京航空航天大学法学院の趙精武(Zhao Jingwu)准教授は「情報商材の詐欺被害を防ぐ鍵は、副業マッチングサービスやSNSなどプラットフォーム上での情報拡散を断ち切ることであり、プラットフォームの責任を明確にすることが重要だ」と指摘している。

 情報商材詐欺は中国だけでなく世界中で横行しているが、詐欺情報を拡散したプラットフォームの責任はあまり問われていない。SNSの時代、詐欺情報であっても一瞬で大量に広がってしまうことを考えれば、被害者の自己責任だけを強調しても根本的な解決にはつながらないだろう。かつて大量に流れてきていたスパムメールがメールソフトなどのフィルター機能の進歩でほぼ消えたように、SNSプラットフォームには人工知能(AI)などを駆使して詐欺情報だけを遮断する方法を何とか開発してもらいたいところだ。(c)東方新報/AFPBB News