【4月3日 東方新報】中国ではここ数年、「霊活就業」という労働スタイルが広がっている。直訳すると「柔軟な就業」で、フレキシブルワークの意味。企業など組織に属さず、自分で決めた仕事を自由な時間で働き、個人で収入を得る人たちの総称だ。中国政府によると、柔軟な就業者は2億人に及ぶ。

 具体的には、中国版ユーチューバーやネット通販オーナーから出張料理人、ペットの世話係、フードデリバリーの配達員まで幅が広い。

 20代前半の榛仔(Zhen Zai)さんは、個人で出張料理の仕事をしている。「以前はレストランのマネージャーをしていました。コロナ禍で休業中、友人宅で料理を作ったことがきっかけで、この仕事を始めました」。おかず4品を作る場合は料金198元(約3766円)、パーティー料理は688元(約1万3087円)。月収は1万元(約19万231円)を超えることもある。大卒の初任給は一般的に3000~5000元(約5万7069~9万5115円)程度なので、高収入に属する。

 北京に住む20代の女性、李楊(Li Yang)さんは犬や猫の飼い主から依頼を受け、各家庭を訪れて飼い主に代わって散歩やエサやり、ふんの処理を行う。1時間50元(約951円)をベースに仕事を請け負い、「自宅から歩いて行ける近所の仕事が中心なので効率が良い。勤め人に友達より収入はありますよ」という。

 中国政府はこうした「柔軟な就業」を後押ししている。

 中国で毎年10%前後の経済成長を続けていた時期は過ぎ、今年の成長率目標は「5%前後」としている。2022年11月の調査で16~24歳の失業率は17.1%。一方で今年の大学卒業予定者は過去最高の1158万人に達する見込みで、企業が雇用する通常の就業形態では人材を吸収できない段階に来ている。3月の全国人民代表大会(全人代=日本の国会に相当)で、今年の施策方針を示す「政府活動報告」では十数回以上、「就職」という言葉が出た。

 最近は「大学院を修了した女性が火鍋店で清掃員をしている」という話題がインターネットで広まった。学歴や就職、出世へのこだわりを捨てて無欲な生活を送る「躺平族(寝そべり族)」といわれる若者も増えている。

 こうした中、個人の能力ややる気を引き出し、仕事につなげようとする「柔軟な就業」がうたわれている。各地の行政は、新しいタイプの職種を始めるための研修を行うなどの支援策も始めている。

 もちろん、「柔軟な就業」がバラ色とは限らない。出張料理をしている榛仔さんは「午前11時からお客さんの家で昼食を作り、夕方には別の家で夕食、時には夜食の注文もあり、帰宅は午前2時です。フリーランスはやっぱり労働時間も長い。トラブル防止のため食材はすべてお客さん自身に買ってもらっていますが、何か問題が起きた時の保障をどうするかなど、心配なことは結構あります」と打ち明ける。

 ペット代行サービスの李楊さんも「会社務めなら年金の積み立てや医療保険があり、退職すれば失業保険も出る。私がいま病気になったら、何の保障もありません」と不安をのぞかせる。

 こうしたことから、「柔軟な就業とは、労働者に社会保障を与えず、都合良く働かせるだけの仕組みではないか」という厳しい声もある。中国メディアは「柔軟な就業を広げるためには、個人で働く労働者の権利確保や社会保障を整備していく必要がある」と指摘している。(c)東方新報/AFPBB News