【6月4日 AFP】エベリーナ・クリスチャンセンさん(15)は自動車運転免許を取得できる年齢になっていないが、高級車BMWのハンドルを握っている。スウェーデンでは、一定以上の速度が出ないよう設定されてさえいれば、正式な免許を持っていない若者でも公道で運転できるのだ。

 これは約1世紀前に制定された法律で認められており、正式免許がなくても15歳以上なら、時速30キロに上限設定された車両を公道で運転することが可能だ。免許を持たない若者でも、農作業用の車両を運転できるようにするのが法制定の狙いだった。

 そうした乗用車やトラックは「A-トラクター(A-traktor)」、もしくは古くからの名称「EPA」で呼ばれる。近年、人気が高まっているが、当局は比例するように増える交通事故に頭を悩ませている。

 クリスチャンセンさんは、首都ストックホルム南部の自宅ガレージに止められたダークブルーのBMW「5シリーズ」の前で、「1年前の4月、誕生日のプレゼントにもらった」と自慢げに話した。学校の成績が良かったことへの特別なご褒美だった。

 ストックホルム郊外の富裕層が暮らす地区では、ポルシェ(Porsche)「カイエン(Cayennes)」などのA-トラクターを運転する若者を日常的に見かける。クリスチャンセンさんも「通学とか友達に会う時に車を使っている」と話す。

 A-トラクターを公道で使用するには、車の後部に三角形のプレートを付けて低速車両であることが分かるようにしなければならない。また、後部座席を取り外し、運転席と助手席だけにする必要もある。

 免許については、15歳で取得できるモペッド(ペダル付きバイク)か、16歳で取得可能なトラクターのものがあれば問題ない。

 もともと地方では車を保有している若者も多かったが、近年は都市部の若者の間でも人気が高まっている。現在、A-トラクターの登録台数は5万台と、ここ2年半の間に約2倍となった。

 A-トラクターの前身は、1930年代の世界大恐慌の頃、農業用機械が不足する中で誕生した。当時、農家にとってトラクターは簡単に手の届くものではなかったことから、政府は安価な車両を入手して改造することを許可した。これが、時代を経て現在のA-トラクターにつながっている。