マーベル映画「アントマン&ワスプ:クアントマニア」の一シーン(c)MONEYTODAY
マーベル映画「アントマン&ワスプ:クアントマニア」の一シーン(c)MONEYTODAY

【03月25日 KOREA WAVE】韓国の「IT(情報通信)強国」の地位が揺れている。半導体とAI(人工知能)など未来戦略技術の核心になる量子技術のレベルが「先進国」に大きく遅れているためだ。量子技術分野の重点化に向けた法案は、今も国会で眠っている状態だ。ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領は量子技術のレベルを飛躍的に向上させると強調するが、果たしてその方法はあるだろうか。

◇「アベンジャーズ」が宇宙を救った秘けつ

量子技術とは、原子レベル以下の非常に小さな世界で展開する物理法則「量子力学」をもとに、計算や通信分野に活用する技術を指す。

多くの人が「量子」(Quantum)という単語を聞くと、米マーベルの映画を思い出す。2018年に公開された「アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー」で、悪党のサノスが「指パッチン」1回だけで、宇宙生命体の半分を吹き飛ばした一方、「アベンジャーズ:エンドゲーム」では、アベンジャーズメンバーたちが世の中を戻した。こうした劇的な展開は、量子力学という設定のおかげで可能になるのだ。

確率と予測不可能性が支配する量子世界の中の時間は、われわれが足を踏み入れて生きていくマクロ世界とは異なる流れに着眼している。アベンジャーズの中でも、アントマンのシリーズは、最初から量子力学を前面に打ち出している。

量子力学は原理も曖昧であり、一つの存在が既存の物理学原理では説明不可能な反応を起こす。量子物理において、物質は粒子(物体)でありながら波動(現象)でもある。

両者の特徴は大きく二つある。一つから割れた二つの粒子の状態の間で「対になる相関関係」があり、二つを遠く離してもこの相関関係が維持される現象である「もつれ」がある。さらに、物体が一つの固定された形態ではなく、さまざまな形態で確率的に同時に存在する「重ね合わせ」がある。

量子技術は、こうした量子特性を情報通信(IT)技術に融合させたものだ。量子状態を生成して制御したり、測定し分析したりする技術といえ、大きく▽量子コンピューティング▽量子通信▽量子センシング(検知)――に区分される。

このうち量子コンピューティングは、「重ね合わせ」の特性を利用したものだ。一般のコンピュータは、ビットを情報の基本単位として使う。二進法による0と1で表現する方式だ。半面、量子コンピュータの基本単位は0と1という状態を「重ね合わせ」したキュービット(Quantumbit:Qubit)だ。ビットと違ってキュービットは00、01、10、11を同時に表現できる。一度の演算で4つの状態が出る確率情報が保存されるので、1つのキュービットに保存された情報は4つになる。それほど複雑で速い演算が可能だ。

量子の「もつれ」現象は、通信にも有用とされる。光の最小単位である「光子」に情報を載せる技術が量子通信だ。「もつれ」関係にある2人の光子は遠く離れていてもお互いの情報をやりとりすることができる。2人の光子の間に第3者が介入すると、すぐに特性が変わるので、中間に割り込む盗聴・傍受の試みを防ぐことができ、暗号技術としても有用だ。

◇IT強国、揺れる

「韓国の量子コンピューティング、量子センシング技術は、米国など先進国に比べて5~10年遅れている」(韓国標準科学研究院超伝導量子コンピューティングシステム研究団のイ・ヨンホ団長)

スーパーコンピューターでも解明に100万年もかかるフルパスワードをわずか数秒で判明させてしまうのが量子コンピューターだ。グローバルITのトップ企業IBMとグーグルが2019年に、量子コンピュータを商用化した後、世界中が量子技術競争に飛び込んだ。

チャットGPTなど人工知能(AI)をはじめ、半導体、通信、センシングなどの分野に利用すれば、経済だけでなく軍事分野でも世界の版図を変える可能性もある。

しかし、「IT強国」と呼ばれてきた韓国の量子技術水準は、通信分野を除いては米国と中国、欧州連合(EU)などに比べて最大10年ほど遅れているというのが専門家たちの見方だ。にもかかわらず、国会では量子技術育成に向けて提出された法案が1年近く足止めされている。

「量子技術開発や産業化促進に関する法制定案」(ビョン・ジェイル「共に民主党」議員案)は、昨年1月に発議された。同年3月、国会科学技術情報放送通信委員会(科学技術情報放送通信委員会)法案小委員会に付託されたが、動きは遅く、今年2月にようやく議論が始まった。小委では今年1月に発議された「量子技術や量子産業集中育成に関する法制定案」(パク・ソンジュン「国民の力」議員案)も議論の対象になっている。

これらの法案は、科学技術情報通信省が量子技術と関連産業を育成するために5年ごとに「量子発展戦略」を策定し、関連R&D(研究・開発)と商用化、標準化、人材養成などを支援する内容だ。量子技術を政府が政策的に支援し、韓国発展の起爆剤にしようとする狙いだ。

ユン大統領は今年を「量子科学技術跳躍元年」と宣言した。ユン大統領は今年1月、スイスのチューリッヒ連邦工科大学で量子分野の碩学たちと対談し、関連書籍やユーチューブなどを通じて量子技術について集中的に勉強しているという。

科学技術情報通信省が今月初め、約1兆ウォン(1ウォン=約0.1円)規模の「量子科学技術フラッグシッププロジェクト」に関連し、大規模な財政事業を推進するかどうかを決める「予備妥当性調査」を申請したのも、ユン大統領の意志と無関係ではない。来年から2031年までの8年間、計9960億ウォンが投入されるこのプロジェクトを通じて量子コンピュータ・通信・センサー分野の核心技術を確保するというのが政府の構想だ。

専門家らは、量子技術育成のためには国家レベルの長期的な投資が必要だと口をそろえる。

高麗大学物理学科のイ・ドンホン教授は次のように指摘している。

「量子技術関連専門人材を確保するため、大学院水準で人材を養成して、長期的な観点で着実に支援しなければならない。養成された人材が各界で活躍できるように、産学研のすべての分野で雇用を創出する必要がある。相対的に難易度が低い量子センサー分野の企業が呼び水の役割を果たし、今後量子技術が発展すれば、量子通信、量子コンピュータなど難しい分野でも産業化が可能になるだろう」

釜山大学物理学科のムン・ハンソプ教授の見立てはこうだ。

「我が国の量子技術研究のスタートは、他の国に比べて相対的に遅かった。投資規模も小さく、専門人材も不足しており、簡単には他国に追いつけないのが現実だ。AI技術に関しても、韓国はたびたび進展と後退の浮き沈みを経験してきた。量子技術の分野でも、私たちがあきらめずに着実に研究を継続していれば、他国の量子技術への関心が衰えた時にきっと逆転できる」

(つづく)

(c)MONEYTODAY/KOREA WAVE/AFPBB News