次世代ツアー報告 震災12年目のシンポジウムで

【3月29日 AFPBB News】昨年の夏、全国から集まった若者が、福島の環境再生と復興の「今」を見詰め直そうと、『福島、その先の環境へ。』次世代ツアーに参加した。それから約半年、参加者の代表が再び福島を訪れ、ツアーでの経験を通じて変化した意識や、発信してきた情報について思いを語った。

 東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所の事故から12年と1日に当たる12日、原発事故の対応拠点となった楢葉町のサッカー施設「Jヴィレッジ」で、「『福島、その先の環境へ。』シンポジウム2023」が開催された。

 小林茂樹環境副大臣や元キャスターで関西学院大学教授の村尾信尚さん、タレントの小島よしおさん、フリーアナウンサーの中野美奈子さんらが参加。復興・再生の取り組みを振り返るとともに、福島の未来について語り合った。

「Jヴィレッジ」で開催されたシンポジウムの様子。(2023年3月12日撮影)。(c)AFPBB News

 シンポジウム当日、昨夏のツアー参加者による自主作成ビデオが会場のスクリーンに映し出され、訪問した施設や参加者の声が紹介された。

 ステージに登壇した参加者の代表は、福島を訪問して経験したことや被災地への思いについて報告した。ツアーで福島を初めて訪れた大学4年の折田日々希さんは、震災からの復興は福島だけの問題ではないと感じた。

「私が届けたいメッセージは、震災と私たちの生活が地続きであること。私たちは直接的な被害の差こそあれ、誰もが震災の当事者であり、誰もが福島と関わりがある」と、折田さんは訴えた。

「復興とは、受けた被害を主に物質的な面で前の状態に戻すことが目的。しかし、ツアーを通じて、復興とは人と人、人と土地、人と文化の関係性を改めて考えてみることだと思った」

シンポジウムに参加した学生。(2023年3月12日撮影)。(c)AFPBB News

心揺さぶられた「ふるさとへの思い」

『福島、その先の環境へ。』次世代ツアーが開催されたのは昨年8月18〜20日。75人の若者が、震災で甚大な被害を受けた浜通りを中心に様々な施設を訪問。参加者は、農業、観光、まちづくり、脱炭素、新産業・新技術の各コースに分かれて現地を視察した。

 中国からの留学生、曹妙璇さんは、福島の人々が持つふるさとに対する強い思いを感じたと言う。

「私の心を揺さぶったのは、災難を経て人々が示した不屈の精神。ここで見たのはふるさとを捨てない人。福島という名前は、『福が集まる場所』だと思う。福島の復興に向けて努力を続けている方たちを見ていると、福島という言葉には、災害や事故よりも希望が似合うと思う」

「Jヴィレッジ」で開催されたシンポジウムの様子。(2023年3月12日撮影)。(c)AFPBB News

曹さんはSNSなどを通じて、これからも福島の情報を世界に発信し続けたいと話す。「日本や世界の人たちに、ここには良質で安全な農作物があること、ここの人々は皆さんが来ることを期待していること、ここは活気に満ちていることをもっと伝えなければ」

記憶とどめる伝承館

 曹さんの印象に残った場所は、震災の記憶を伝える東日本大震災・原子力災害伝承館。ツアー参加者全員が訪れた場所だ。津波で更地になったエリアに立地する同館は、27万点に及ぶ震災や原発事故関連の資料を収蔵。そのうち約200点が展示されている。

 震災当時の写真展示を見た時、心が痛くなり涙が出た。私は北京で生まれて地震の経験がほとんどない。しかし、写真を見ると皆さんの感情を共有することができた」と、曹さんはAFPBB Newsに語った。

「Jヴィレッジ」で開催されたシンポジウムの様子。(2023年3月12日撮影)。(c)AFPBB News

膨大な量の除去土壌

 中間貯蔵施設も全参加者が訪れた。福島第1原発に隣接しており、除染に伴い発生した除去土壌や廃棄物を貯蔵する広大なエリアだ。

 大熊町と双葉町にまたがって設置されており、1300を超える県内の仮置き場から除去土壌などが集められている。搬入が始まったのは2015年。累積搬入量は東京ドーム約11杯分に達する。

 ここに集められた除去土壌などは、2045年までに県外で最終処分することが法律で定められている。しかし、最終処分地はまだ決まっていない。

「Jヴィレッジ」で開催されたシンポジウムの様子。(2023年3月12日撮影)。(c)AFPBB News

 東京の大学に通う竹内新さんは、授業の課題として中間貯蔵施設についてのレポートを作成した。ツアー参加後、施設について調べ直したり、同じ大学の学生にアンケートを行ったりした。

 アンケートの結果から、中間貯蔵施設の認知度は非常に低いことを再認識した。今後も施設について引き続き関心を持ち続けたいと言う竹内さんは、機会があれば今回まとめた資料を専門誌などに投稿してみたいと、希望を語った。

「少なくとも中間貯蔵施設の役割が終わるまでは、福島県の除去土壌に関するニュースは追っていきたい」

シンポジウムで開幕の挨拶をする小林茂樹環境副大臣。(2023年3月12日撮影)。(c)AFPBB News

環境省の取り組み

 オンラインでもライブ配信されたシンポジウムの冒頭、小林副大臣は開幕の挨拶で、環境省は今後も福島の復興に向けて全力で支援していくと表明。その上で、「一人ひとりに今、ここで起きていることを自分事として考えてもらうことが大切」とし、除去土壌の最終処分問題などについて幅広い理解を求めた。

 トークセッションも開催され、小林副大臣の他、小島よしおさん、LOVE FOR NIPPON代表のCANDLE JUNEさん、村尾信尚さん、フリーアナウンサーの中野美奈子さんらが参加した。

シンポジウムのトークセッションに参加する小島よしおさん。(2023年3月12日撮影)。(c)AFPBB News

 ファシリテーターを務めた村尾さんは、正確な情報発信の重要性を強調。「分からないから怖いということに対しては、科学的な数字で説得すること。もう一つは、分かりやすく説明する手法が欠かせない」と語った。

 小島よしおさんは、福島が抱える問題について、関心のある人たちが積極的に情報を発信することが大切だと会場に呼び掛けた。「それぞれ得意分野がある。僕の場合は歌ったり踊ったりするのが好きだし得意。小説を書くのが得意であれば小説にする。そういうことをそれぞれがやっていくことが大切」

 環境省の馬場康弘参事官は「環境省では、全国の対話フォーラムにおいて、データを積極的に発信して皆さんに正確なデータを知ってもらう取組も積み重ねている。今後もさらに理解醸成の取り組みを深めていきたい」と話した。

Jヴィレッジで行われたキャンドルナイトの様子。(2023年3月11日撮影)。(c)AFPBB News

「復興した福島を見たい」

 シンポジウムの前夜、Jヴィレッジではキャンドルナイトが開催され、福島県の形に並べられたろうそくの炎が暗闇のサッカー場に浮かび上がった。

 大学3年の山川真依さんは、炎を見つめながら、福島を再び訪れたいと語った。

「ツアーはとてもいい経験だった。来年もまた福島に来ることができれば。その時は今以上に復興している福島を見てみたい」

 取材編集/AFPBB News

Jヴィレッジで行われたキャンドルナイトの様子。(2023年3月11日撮影)。(c)AFPBB News

シンポジウム当日の放映動画のアーカイヴはこちらから

*この記事は環境省の協力により配信をしています。