【3月26日 AFP】タイ・バンコクの7階建てのショッピングセンター。安物の香水やナイロン製の下着売り場を抜け屋上に行くと、おりの中にゴリラが1頭座っている。ブアノイ(小さなハスの意)は30年以上にわたり、この屋上動物園「パタ(Pata)」で暮らしてきた。

 米歌手シェール(Cher)さんら著名人を含め世界中から、ブアノイをパタから移動させるよう求める声が上がっている。しかし、動物園を所有する一族は、市民だけではなく政府からの圧力にも屈せず、手放すつもりはないとしている。

 ヒガシゴリラのブアノイは1992年、3歳の時にドイツの動物園から移送されてきたと報じられている。国際自然保護連合(IUCN)によると、ヒガシゴリラの平均寿命は約40年で、ブアノイは寿命の大半をおりの中で過ごしていることになる。

 トラとの自撮りやゾウ虐待などのイメージを刷新し、自然環境により配慮した国を目指しているタイにとって、パタ動物園の存在は厄介なものとなっている。

 当局は新たな環境関連法を成立させたが、保護の対象は国内で生まれた動物が主で、私営動物園で飼われているブアノイのような動物は必ずしも保護対象となっていない。

 AFPはパタ動物園にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

 パタは今月、園内の壁に「ブアノイに自由を!」と落書きした犯人を見つけた人に賞金10万バーツ(約40万円)を出すと発表し話題になった。同園は6ページにわたる声明で「ゴリラを所有していることで市民から攻撃されるのは世界でもタイだけだ」と述べた。

 ブアノイの解放を求める国際的な声が高まる中、タイの天然資源・環境省は動物園を所有する一族に対し、ブアノイを移送させるためとして3000万バーツ(約1億1500万円)を提示したが断られたと報じられている。

 一族はすみかを変えるにはブアノイは年を取り過ぎているとしている。だが、動物愛護家らは家族愛が強く非常に社交的なゴリラを、自然環境下ではなく1頭だけおりで飼うこと自体が不適切だと非難している。(c)AFP