【3月8日 東方新報】中国の古都、浙江省(Zhejiang)杭州市(Hangzhou)にある西渓湿地で、約2万本の梅の花が見ごろを迎えている。湿地の梅の開花は比較的遅く、西渓湿地では3月中下旬まで続くこともあるという。

 西渓国家湿地公園(Xixi National Wetland Park)の面積は東京ドーム約250個分の11.5平方キロ。約70%が河川、池、湖、湿地帯で覆われ、河川長は100キロ以上もある。重要な湿地を守るラムサール条約にも登録されている貴重な湿地だ。

 若い中国人にとっては、2008年に公開されて北海道旅行ブームを巻き起こした映画『非誠勿擾』(日本公開時の題名は『狙った恋の落とし方』)のロケ地として有名だ。映画の中では結婚相手を探して見合いを繰り返す主人公が湿地を訪れ、案内人から次のような説明を聞くシーンがある。

「皆さんは杭州と聞けば西湖(West Lake)と連想し、西湖より5キロ先にある名所はご存じありません。そこは亜生態系として中国初の国定湿地公園に選ばれた西渓湿地です。 宋の皇帝が逃亡中に立ち寄った西渓に魅せられて臨時宮殿の『行宮(あんぐう)』を建てたいと望んだものの資金不足で断念しました。皇帝は未練から『西渓は名残惜し』といい、その美名が今に残りました」

 杭州の西湖とは、世界遺産にも登録されている中国有数の景勝地だ。そのわずか5キロ先にこれほどの大自然が残されていることを知る人は少ない。馮小剛(フォン・シャオガン、Feng Xiaogang)監督は、この映画のロケ地として有名な西湖ではなく、その近くにある西渓湿地を登場させ、有名にしたいと考えたようだ。映画は前半が西渓湿地を、後半は北海道の大自然を舞台としてコミカルで切ない恋模様を描いていく。

 西渓湿地のシーンでは、日本でも活躍する徐若瑄(ビビアン・スー、Vivian Hsu)もお見合い相手の一人として出てくる。父親が杭州に工場を建てた台湾人で、結婚を望まない相手の子どもを身ごもって、生まれてくる子どもの父親になってくれる男性を探しているという設定だ。

 この映画では、登場する人物がそれぞれに忘れがたい過去を引きずっているのだが、西渓湿地や北海道の自然の中で、そして人間の交わりによって時間をかけて癒やされていく。

 映画の影響もあって、西渓湿地は美しい自然の代名詞となり、訪れた人たちがSNS上にカラフルな写真や動画を投稿するようになった。特に梅が咲く春は、SNSのコメント欄で「まだ咲いていた?」「どのルートで見学するのがいいの?」などとやりとりが繰り広げられている。

 中国屈指の景勝地・西湖の陰に隠れて、手つかずの自然が残された西渓湿地。かつて資金不足で「行宮」を建てられなかった宋の皇帝も満開の梅を見たら、きっと満足してくれるに違いない。(c)東方新報/AFPBB News