【3月8日 東方新報】中国では最近、ある女性が火鍋のスープにケシの殻を入れて食べたのがバレて罰せられたというニュースが注目を集めた。ケシ鍋を食べたのは貴州省(Guizhou)から江西省(Jiangxi)宜春市(Yichun)に出稼ぎに来ていた女性。尿検査で陽性反応が出たわけだが、女性は「自分で食べる分には誰にも分からないだろう」と考え、故郷からもってきたケシの殻を使ったという。理由は「鍋を美味しくするため」だった。

 日本人にはまさか、と思えるような話だが、中国にはこの女性のように、ケシの殻を「隠し味」として使えば、鍋底やスープの味がぐっと上がると信じている人が少なからずいる。

 ケシと言えば、その実はアヘンの原料として知られる。中国では、アヘンはもちろんだが、ケシの殻も麻薬の一種と見做されており、違法だ。その上、料理などから長期間摂取されると、悪寒や発汗などの症状や、集中力や記憶力の衰退を生じさせるという。また神経系統や内分泌系統にも悪影響を与え、最悪の場合には死に至らしめることさえあるというから、調味料として使われるなどはもっての他だ。こうした有害性から、2008年には違法食品添加物のリストに加えられている。

 にもかかわらず、中国ではケシの殻を「隠し味」に使った鍋や惣菜を店で出したなどという事件が、なくならない。2020年からだけでも、ケシ殻の「隠し味」絡みの事件で少なくとも200件の裁判が開かれた。

 また、去年の報道で明らかになったのは、ケシ殻の密売の実態だった。中国内の多くの漢方薬の集散地で、火鍋店や屋台の店主などに500グラム500元(約9869円)から700元(約1万3816円)で売られていたという。それだけ需要が存在しているわけだ。

 さらには、ケシ殻を成分に含んでいると思わせる調味料もある。明言しないまでも、それとなくにおわせるような絵や宣伝文句を用いているのだ。

 違法にもかかわらず、ケシの殻をあえて使った理由について、「隠し味」事件の多くの被告が、次のような趣旨の供述をしている。

「ケシの殻を加えると味がよくなる上、客が中毒になってリピーターが増えると聞いた」

 ケシの殻に含まれる、向精神物質アルカロイドは微量だが、一般の人が長期的に摂取すれば本当に中毒になり得るというから、「隠し味」事件の被告たちはある意味、商売に熱心だったのかもしれない。だが、楽をして店を繁盛させようと思った自分たちの方が、客より先にケシ殻の魔力に落ちていたという皮肉には気づかなかったのだろう。ちなみに中国の刑法によれば、ケシの殻を違法に売買、運輸、所持などした場合には、3年以下の有期刑に処せられる。(c)東方新報/AFPBB News