【3月6日 AFP】2年前からチェコに住んでいるウラジミール・ステツェンコさん(61)は昨年10月、ロシア・モスクワ南部にある自宅アパートを改装して売りに出した。だが、期待は外れた。「2、3週間は電話1本なかった」と話す。

 ロシアはウクライナ侵攻により西側諸国から制裁を科されており、経済の先行きは不透明だ。おまけに売り出したのは昨年9月にウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が、予備役の部分動員を発表した直後でタイミングが悪かった。侵攻開始以降、家を売り外国へ移住する市民が増えていた流れに拍車が掛かり、不動産市場は大幅に供給過剰になっていた。

 ステツェンコさんは年末にはなんとか、10年前の購入額とほぼ同じ20万ユーロ(約2860万円)ほどでアパートを売却できたが「気をもんだ」と述べた。

■価格のジェットコースター

 モスクワの住宅市場は、ここ最近のロシア経済全体の動向を反映しているように見える。不動産アナリストによると、侵攻開始以降の住宅価格はジェットコースターのように上下した。

 制裁を受けてロシア中がパニックになると、モスクワでは住宅所有者が資産価値を守ろうとし、住宅価格が急騰した。ある不動産業者によると、ピークは昨年3~4月だった。

 次にウクライナ侵攻に反対したり、将来を不安視したりした市民が国外へ脱出すると、今度は価格がじりじりと下落し始めた。

 不動産マーケティング会社のトップ、オレグ・レプチェンコ氏は、現在の状況はロシアがクリミア(Crimea)を併合し、西側諸国が制裁を加えた2014~15年と酷似していると指摘する。「当時も住宅価格は短期間で高騰しピークに達した後、下がり始めた」

 ウクライナ侵攻の開始から2月24日で1年がたった。ロシア当局は、経済はほぼ適応できたと主張しているが、エコノミストらはそれほど楽観的ではない。欧州連合(EU)など西側は制裁を強化している。

 各地のショッピングモールでは、ロシアから撤退したマクドナルド(McDonald's)やコカ・コーラ(Coca-Cola)といった外国企業に代わって国内企業が運営する店舗が入っているものの、人けはない。インフレ率は12%に上り、消費者の購買力は低下している。

 外国人観光客は激減。自動車製造業をはじめ多くの産業に供給不足の影響が出ている。

 ロシア経済ウオッチャーの間では「異常に」高いエネルギー収入が、昨年の制裁による打撃を緩和したという見方もある。

 だが、独立系分析サイト「Re: Russia」は、今年のロシア経済はさらに厳しくなるとの見通しを示している。

 同サイトは、「大量の資本流出と国際市場や金融システムからの孤立に伴う危機は、過去の物ではなく将来に迫っている」と分析。2022年2月24日以降のロシア経済には「展望がない」としている。(c)AFP