■後退するデルタ

 ナイル川河口に位置するエジプトのダミエッタ(Damietta)やロゼッタ(Rosetta)といった地中海沿岸の都市では、土地の後退が進んでいる。海面上昇から守るためのコンクリート構造物も水没しかかったり、砂に半ば埋もれたりしている。

 何千年も土地を守ってきた、ナイル川が運ぶシルト(沈泥)は、もはや河口域まで流れ着かなくなった。そうしたこともあり、デルタは1968年から2009年の間に3キロ後退した。

 かつては上流から下流まで川底は沈殿した黒いシルトに覆われていたが、1960年代に洪水を制御するためアスワンダム(Aswan Dam)が建設されて以降、下流にはシルトは運ばれなくなった。

 エジプトの沿岸保全当局の責任者は、ダム建設前には「自然のバランスがあった」と解説する。「かつてはナイル川で洪水があるたびにダミエッタやロゼッタにシルトが堆積したが、その作用がダムによって損なわれた」

 国連環境計画(UNEP)は、このまま気温上昇が続けば、ナイル川デルタは年100メートルのペースで後退すると警告している。<※ナイル川シリーズ(2)に続く>(c)AFP/Menna ZAKI in Sudan, Grace MITSIKO in Uganda and Bassem ABOUALABBAS and Sarah BENHAIDA in Egypt