【1月3日 AFP】2017年にノーベル文学賞(Nobel Prize in Literature)を受賞した日本出身の英国人作家で大の映画ファンでもあるカズオ・イシグロ(Kazuo Ishiguro)氏(68)は、半世紀以上にわたり黒澤明(Akira Kurosawa)監督の名作『生きる(Ikiru)』の魅力に取り付かれてきた。

 イシグロ氏は、がんを宣告され単調だった人生の意味を探し始める初老の公務員を描いた同作への思い入れが募り、1950年代という時代はそのままに、舞台をロンドンに移してリメーク版を製作してはどうかと夢想するようになったという。

 イシグロ版の『生きる LIVING(Living)』はすでに、主演のビル・ナイ(Bill Nighy)がゴールデングローブ(Golden Globes)賞と放送映画批評家協会賞(Critics' Choice Award)にノミネートされたほか、アカデミー賞(Academy Awards)でも脚色賞の最有力候補と目されている。

 イシグロ氏はAFPに対し、第2次世界大戦(World War II)後の復興期にあった1950年代の日英文化には「多くの類似点」があり、リメーク版にもそれが反映されていると話した。

 黒澤版の主人公と同様、イシグロ版の主人公でナイが演じる「ウィリアムズ」も、機械的な役所仕事を数十年間続ける中で、自分が何も成し遂げていないことにはたと思い至る。

 命の期限に直面し、家族にも言い出せずにいるウィリアムズは、ささやかな児童公園を整備してほしいと長年嘆願を受けてきた主婦グループに力を貸そうと思い立つ。

 イシグロ氏は、努力をすれば「取るに足らない窮屈な人生を送っていたとしても、それを素晴らしい、誇れるものへと転換してくれる何かを見つけることができるかもしれない」ということが、作品のテーマだと語った。

 さらに、同作は現代人の生き方のメタファーでもあり、特に職場で多くの人が何かとつながるという感覚を持てない現状に警鐘を鳴らすものだとしている。

「職場での貢献が廊下の向こう側にいる人とどう関係しているのかさえも分からない。バーチャルな世界や新型コロナウイルスの影響もあり、われわれの世界はこうした傾向が強まっているように思う」と同氏は述べた。