【11月21日 東方新報】中国政府が各都市の社区(集合住宅地の単位)に公的食堂を設けるよう通達を出したことが、よくも悪くも話題となっている。

 社区とは日本で言えば町内会がイメージに近いが、行政の末端組織的な役割も担い、住民から選ばれた居民委員会が地域で国の政策の宣伝、流動人口の管理、治安の維持、独居老人の支援などに関わっている。コロナ禍が深刻な時期は、居民委員が地域住民に「ステイホーム」の徹底を指導して回っている。

 住宅・都市農村建設省と民政省は10月31日、地方政府に向けた通達を発表。各都市で3~5か所の社区を試験的に選び、2年以内に幼稚園や託児所、高齢者サービス、家政サービス、食堂など住民の暮らしを支える安価な商業サービス施設を設立するよう指示した。

 この中で特に注目が集まったのが「社区食堂」だ。かつての計画経済時代のシンボルだった「国営食堂」が復活するのではないかとインターネット上で臆測が拡散した。日本でも「安さが取りえ、味は二の次」といった飲食店を「人民食堂」と呼んだりするように、中国で国営食堂というと無料だが画一的なメニューで料理はまずく、不衛生といったイメージがある。最低水準の生活に満足して積極的に働かないことを「大鍋飯を食う」と言い、国営食堂は競争がなく非効率な計画経済の象徴とされている。

 政府は誤解を解くために「社区食堂は地域サービスの向上が目的」と火消しに努め、国営メディアは「社区食堂が既存のレストランに取って代わることはない」「『大鍋飯』を出すのではなく、魅力的な食堂を作ることが狙い」と報道している。

 中国では一人っ子政策が長年続いた影響で今年中にも人口が減少するといわれ、本格的な高齢化社会が到来しつつある。また、都市部で働く若者が増え、地方の社区では子どものいない老夫婦だけの「空き巣家庭」や独居老人の増加が社会問題になっている。

 こうした高齢者は自宅で料理する意欲が低下し、調理をしても食事が偏る傾向がある。一方で外食が増えれば費用もかかるし栄養バランスが取りにくい。糖尿病や高血圧などの生活習慣病を抱える高齢者にとっては症状の悪化にもつながる。社区食堂は、地元で安価かつ栄養バランスのある食事ができる場所として整備するのが本来の狙いだ。

 現在も社区食堂のある地域は少なくない。上海市内の「インテリジェント社区食堂」では、高齢者が支払いのため料理を載せたトレーをカウンターに置くと、自分の食堂カードに料理の名前や栄養成分が記録される仕組みになっている。一定期間の栄養摂取量を分析し、より適切なメニューの提案も受けられるという。

 中国メディアは「社区食堂は働く若者にもメリットがある」と強調している。親から過保護に育てられた一人っ子世代の中には、料理が得意でない若者も多い。給料はいいが残業が当たり前の職場も増えており、「社区食堂があれば自宅で炊事をせずに済み、栄養管理もできる」というわけだ。実際、飲食チェーン業界では「社区食堂は新たなビジネスチャンス」ととらえている動きもある。

 中国社会科学院(CASS)生態文明研究所資源環境経済研究室の婁偉(Lou Wei)主任は「社区食堂は巨大な市場に発展する可能性を秘めている。安価で魅力的な食堂を実現するには、政府が優良飲食業者を誘致するため賃料減免や補助金支出などの優遇政策を取る必要がある」と提言している。(c)東方新報/AFPBB News