【12月11日 AFP】ロシア人弁護士、マリア・エイスモント(Maria Eismont)氏(47)はモスクワの法廷で、ほぼ勝ち目のない戦いに挑んでいた。自身が弁護を引き受けた被告の学生はロシア軍についてうその情報を広めたとして起訴されていた。法廷で鉄格子の中に入れられた被告が証人に糾弾されるのを裁判官は傍観している。ロシアの裁判ではよくある光景だ。

 以前からロシアの司法制度は政権を批判する側に極めて不利だったが、今年2月のウクライナ侵攻開始以降、その傾向は一層強まっている。エイスモント氏はその過程を目の当たりにしながらこの国に最後まで踏みとどまっている反体制派寄りの弁護士の一人だ。

 この裁判はモスクワ大学(Moscow State University)の学生だったドミトリー・イワノフ(Dmitry Ivanov)被告(23)が、メッセージアプリのテレグラム(Telegram)に開設した政権に批判的なチャンネルをめぐるものだった。ロシア軍に関する「偽情報流布」で有罪になれば最長10年の実刑を言い渡される可能性がある。

 証言台に立つ同大のリュドミラ・グリゴリエワ(Lyudmila Grigoryeva)教授(62)は元学生を指さして糾弾した。「彼はロシアを憎悪する人々に手を貸し、社会のクズどもを擁護しています。(中略)気に入らないことがあるなら黙っていなさい!」

■収監、拘束、国外追放

 エイスモント氏はロシアとアフリカで20年ほどジャーナリストとして働いた後、2018年に弁護士になった。

 それから5年足らずのうちに野党勢力の指導者は収監、抗議デモ参加者も多数拘束され、そうした人々の弁護を担おうとする著名なリベラル派弁護士は国外追放された。

 今年3月には、ロシア軍に関して当局が虚偽と見なした情報を流布した場合に懲罰を科す新法が制定された。