【10月18日 AFP】「お母さんのおじいさんは(ウラジーミル・)レーニン(Vladimir Lenin)と同じ1870年生まれでしょ」

 ロシアの首都モスクワの赤十字(Red Cross)センターで、女性が緊張した面持ちで母親に電話をかけていた。ユダヤ人がルーツであることを証明し、息子を動員されないようにするためだ。

 女性は疲れた様子で、AFPに対し「息子がウクライナで戦わなくて済むようにするにはイスラエル国籍を取るしかない」と語った。安全上の理由から、名前は明かさなかった。

 今年2月にウクライナ侵攻が始まると、何万人ものロシア人が国外に脱出した。9月にウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が部分的動員を発表した後は、さらに多くの人が出国した。

 ロシアでは、イスラエルに移住するため祖先にユダヤ人がいるかどうかを調べる人が急増している。

 イワン・ミトロファノフさん(32)も、祖父母がユダヤ人だったことを示す証拠を必死に探している。

 IT系の仕事に就いているミトロファノフさんは、今回の動員の対象外だ。それでも、「国境が開いているうちに急いで出国したい」と話す。

 大半の国民が追加動員を予想している。戒厳令が出されたり、徴兵対象年齢の男性の出国が禁じられたりするのではないかと危惧する人も多い。

 ミトロファノフさんは、欧州よりもイスラエルの方がましだと考えている。「欧州ではロシアの旅券は嫌われている。歓迎されるイスラエルに行きたい」

 モスクワ西部の役所で働くタチアナ・カラズニコワさんは「ここに来る人の9割がユダヤ人の子孫であることを示す証拠を探している」と語る。

 当局は、国外脱出を図るロシア人は愛国的ではないと批判している。カラズニコワさんも良くは思っていない。「ロシアを去って、終わりが見えない戦争をしているイスラエルに行くなんて」と皮肉った。

 イスラエルの人口940万人のうち、100万人以上が旧ソ連にルーツを持つ。侵攻が始まって以降、ロシアとウクライナからの移住申請は3倍に増えたという。

 イスラエル統計局によると、2月末以降、ロシアからは2万人、ウクライナからは1万2000人超が入国した。

 これを受けロシアは7月、ユダヤ人系ロシア人の移住を支援する団体に対し、違法行為があったとして解散を命じた。

 ユダヤ人の祖先を探すため、家系調査の専門家に依頼する人もいる。

 ユダヤ家系の調査専門家、ウラジーミル・パレイ(Vladimir Paley)氏(55)は、侵攻開始以降、ロシア人とウクライナ人からの依頼が「10倍になった」と話した。

 部分的動員発表後は、息子を国外脱出させたい母親からの問い合わせが増えたという。

 国外移住を慌ただしく決めたことで、家族がばらばらになる事例もあった。

 元内務省職員のアンドレイ・トルベツコイさん(58)は、ロシアがウクライナに侵攻したのを見て、自分の国とは「今後関わりたくない」と思った。

 歴史学者の妻と一緒に公文書を調べていたところ、曽祖父がユダヤ教敬虔(けいけん)派(ハシディズム、Hasidic Jewish)に属していたことを偶然発見した。

 2人は移住のための書類を準備し、ヘブライ語の勉強を始めた。しかしぎりぎりになって妻は移住を拒否。2人は離婚に至った。

 トルベツコイさんは単身で移住するつもりだ。(c)AFP/Marina LAPENKOVA