【10月19日 AFP】人けのない廊下、ベビーベッドには赤ちゃんが8人だけ──。ブルガリアの都市ガブロボ(Gabrovo)の産科病棟は、欧州連合(EU)最貧国の急激な出生率低下を象徴している。

 小児科医ビストラ・カンブロバ氏(68)は「出産適齢期の人はあまり残っていない。若い人は職を求め、大都市や海外に行ってしまった」と、AFPに語った。

 バルカン(Balkan)山脈の麓に位置するガブロボは、かつては工業が盛んだった。「ブルガリアのマンチェスター(Bulgarian Manchester、英国の産業都市)」と呼ばれたこともある。しかし、1985年に比べ、人口は半減した。

 ブルガリアではありふれた話だ。

 汚職がまん延し、将来に期待が持てない、政治危機も連鎖。幻滅した若者は去っていく。

 1989年には900万人近くいたブルガリアの人口は、現在は652万人にまで落ち込んでいる。うち4分の1は65歳以上だ。

■「味気ない土地」

 破産と民営化の波が押し寄せる前の共産主義時代には、カブロボでは数千人の雇用があった。現在は国内で最も出生率が低く、ほぼ無人の村の数が最も多い地域となっている。

 カンブロバ氏は「1985年にここで働き始めた。当時、出生数はまだかなり多く、年間約1000人の赤ちゃんが生まれていた」と語った。成人した息子2人は、ガブロボを離れている。

 2021年にガブロボで生まれた赤ちゃんはわずか263人。かなり前に定年を迎えたが、なおかくしゃくとしているカンブロバ氏が世話をしている。報酬は「惨めなもの」だ。

 助産師のマリアナ・バルバノバさんは言う。「話は単純。雇用がなく、若者がいないから赤ちゃんも生まれない」

 残っている人の多くも、カブロボから出て行こうとしている。

 女の子を最近出産した言語聴覚士のクリスティアナ・クラステバさん(23)は「ガブロボには平穏と落ち着き、新鮮な空気があるけれど、出会うのは高齢者だけの味気ない土地」だと語った。

 大工をしているクラステバさんの夫は、より良い未来を求め、家族で英国に移住する準備を進めている。

■「孫、貸します」

 ガブロボから25キロ離れた、絵のように美しい村ザヤ(Zaya)の人口はわずか35人。

 フランスや英国、ベルギー、ロシア、イタリアなどから、生活費の安さに引かれた年金生活者が移り住んでいる。

 村に投票所はなく、食料品店は何年も前に閉店した。

 元電気技師のマリン・クラステフさん(77)は週に1回、車を運転し、同年代の女性3人と連れ立って最寄りの店まで買い物に出掛ける。「一緒に買い物に行くことに決めた。何とかやっている」と話す。クラステフさんの娘は、何年も前にドイツに移住した。

 生活を少しでも明るいものにしようと、高齢者は夏の間、若者に村の生活を体験させる自治体のプログラム「孫、貸します」に参加する。

 村の文化センターのボヤナ・ボネバ会長(75)は「若い人たちはウサギや自家製トマト、ピーマンを楽しんでいる」とほほ笑んだ。(c)AFP/Vessela SERGUEVA