■新型コロナと武漢の医師の死

 2020年初め、武漢(Wuhan)市で新型コロナウイルスの流行についてソーシャルメディアで早期に警鐘を鳴らした医師がいた。李文亮(Li Wenliang)氏だ。だが、李医師は「デマ」を流布したとして当局に処分された。

「李文亮博士が投稿した情報は検閲され、テレビのプロパガンディストたちは、この医師が誤った情報を流していると騒ぎ立てました」とチェンさん。

 しかし、李医師自身が新型ウイルスに感染して死去すると、中国のネットユーザーの間に怒りが広がった。

「誰もがツイッター(Twitter)や微博(ウェイボー、Weibo)で最新ニュースをチェック」しながら、うわさと当局の否定の間で真実を追い求めていたとチェンさんは説明した。

「多くのツイートや微博の投稿が削除」され、チェンさんも「『私たちが求めているのはニュースの自由。検閲はもう要らない』と投稿したところ、微博アカウントを凍結されました」と言う。

「その時に思ったのです。私も、この検閲機構の一部だったんだと」

「李医師が亡くなった夜、もうこれ以上やっていけないと思いました」と続けた。

 チェンさんは仕事をやめ、米ノースイースタン大学(Northeastern University)シリコンバレー校の大学院課程に入学を申し込んだ。

■勇気ある理想主義者

 チェンさんはカリフォルニアにいれば安全だと感じているが、中国にいる両親からは発言に気を付けるように言われている。「でも、この問題に関しては親の言うことを聞くつもりはありません」

「少なくとも10年は中国には帰れないと思っています」

 だが、検閲との闘いは「民衆の闘い」であり、代償を払う価値はあるとチェンさんは言う。

「私たちは、中国で何が起きているのか、認識を高めるべきなのです」

 習主席の3期目続投は確実視され、チェンさんの心は重い。

「短期的に見れば、誰もが悲観しています。でも、中国の未来を長い目で見れば、みんな楽観しているのではないでしょうか」

「歴史を振り返ると、いざというときに改革を起こす勇気ある理想主義者が必ずいます」

 映像は8、9月に撮影。(c)AFP/Huw GRIFFITH