【8月17日 東方新報】今年中にも人口が減少すると予想されている中国。各都市では、大学の卒業生に地元で就職してもらおうと、さまざまな優遇策を打ち出している。

 福建省(Fujian)アモイ市(Xiamen)は、市内に就職した若者の家賃を5年間にわたり半額負担する施策を実施。これまでに3万人が恩恵を受け、市が負担した家賃総額は6400万元(約12億5799万円)に上る。さらに、市内に住む地域によって毎年5000~8000元(約9万8280~15万7248円)の生活手当を支給。起業した場合は50万元(約983万円)を支援する。

 対象は、アモイ市内の大学の卒業生とアモイ出身の卒業生。アモイ以外の出身者には市内の戸籍を与える。中国では一般的に非戸籍地で暮らすと公的サービスに制限があり、新たに戸籍を取得しようとしてもハードルが高い。そのため戸籍の取得は現金以上の「最高のボーナス」と言える。

 9月入学制の中国は6~7月が卒業シーズンで、今年の大学(専門学校含む)卒業生は前年比167万人増の1076万人。初めて1000万人の大台を超え、過去最高を記録した。中国ではホワイトカラー層の企業の需要に対して大学卒業生の方が圧倒的に多く、毎年就職難が話題となっている。先の見えないコロナ禍もあって募集枠を狭める企業もあり、今年は「史上最も就職が困難な年」と言われている。

 とはいえ、中国の大学生は自分の就職希望レベルを簡単に下げない。2021年の卒業生909万人のうち卒業と同時に就職したのは約6割。残る4割は大学院進学や海外留学、もしくは時間をかけて就活する「慢就業(ゆっくり就職)」の道を選んでいる。一方、中国各地の都市では本格的に少子高齢化が進んでいる。そこで人材確保のため、「奪い合い」のように優遇策を打ち出している。社会に出る若者にとって当面の大きな課題はやはり住居。湖北省(Hubei)武漢市(Wuhan)は3年間、家賃の70%を補助。遼寧省(Liaoning)大連市(Dalian)も家賃を3年間補助する上、卒業後5年以内に住宅を購入した場合は1万元(約19万6561円)を支給する。このほか、アモイ市と同様に起業支援や戸籍取得を掲げる地域が多い。

 上海市は6月、世界ランキング100位内の名門大学に留学・卒業した若者が上海で就職すれば、戸籍を取得できるという施策を発表。中国国内で大きな話題を呼んだ。上海のような大都市はもともと若者の就職エリアとして人気が高い上、環境汚染や渋滞問題などで人口を抑制したいため、戸籍を与える施策はこれまででは考えられなかった。しかし、定住人口1457万人の上海市では高齢者が毎年20万人増加しているのに対し、年間出生数は10万人にとどまる。「都市の高齢化」が本格的に始まる事態に直面し、大きく政策の舵(かじ)を切った。

 ちなみに、広東省(Guangdong)広州市(Guangzhou)も2020年末、中国の名門校と海外の名門校をともに卒業した「双一流(ダブルファーストクラス)」の学生が市内で就職した場合、戸籍を取得できる方針を発表している。日本の自治体がこうした施策を導入すると「学歴差別だ」と問題が起きそうだが、中国では「自分の力で獲得したステータスには、それ相応の待遇があって当然」という考えがある。中国では昨年から1組の夫婦に3人まで出産を認めるなど少子化対策に懸命だが、出生数はそれでも減少している。このため今後も各地の人材獲得合戦は激しく続くとみられる。(c)東方新報/AFPBB News