【8月12日 AFP】エクアドルの生物工学者ハビエル・カルバハル(Javier Carvajal)氏(59)は、古いオークだるの木片から採取した400年前の酵母を復活させ、中南米最古とされるビールの再現に成功した。

 中南米最古のビールは、現在首都となっているキトで1566年、フランシスコ修道会(Franciscan)のホドコ・リケ(Jodoco Ricke)修道士によって初めて醸造された「霊薬」だと言われている。欧州のフランドル地方(Flemish)出身のリケ修道士は、キトに小麦や大麦をもたらしたとされる人物だ。

 カルバハル氏は、「生物学的に貴重な菌を発見したというだけではない。恐らくチチャや地元の環境に由来する酵母を黙々と培養した、400年前の研究をも取り戻すことができた」とAFPに語った。チチャとは、スペインによる植民地化以前に北南米の先住民がトウモロコシを発酵させて造っていた飲み物。

 カルバハル氏はビール専門誌を読んでいた際に、フランシスコ修道会の醸造所がキトにあったことを知った。1537年から1680年にかけて建造された3ヘクタールの建物は現在、博物館になっている。

 1年がかりの調査の末、2008年に当時醸造に使われていたたるを発見。木片を持ち帰り、顕微鏡を使って小さな酵母の標本を採取し、長い培養期間を経て復活させることに成功した。

 エクアドル教皇カトリック大学(PUCE)の研究室で、カルバハル氏はサッカロミセス・セレビシエレスカタダ(Saccharomyces cerevisiaerescatada)という種類の酵母が入った小さな容器を手に取り、「この中で生きている酵母はとても地味だが、この研究室の主役だ」と述べた。

■レシピの穴を埋める「ビール考古学」

 生家が醸造業を営んでいるカルバハル氏は、16世紀のフランシスコ修道会の飲み物の製法について漠然と説明した業界誌を参考に情報の断片をつなぎ合わせ、シナモン、イチジク、クローブ、サトウキビの香りを持つ醸造酒を復活させた。

「レシピには無数の穴があり、それを埋めるのが私の仕事だった」とカルバハル氏。ビールの風味の大部分を生み出す酵母を救い出した工程は、「微生物考古学におけるビール考古学の作業」だと話す。

 10年間に及ぶ調査と試験の後、2018年に自宅でビール製造を開始した。ただ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な大流行)のため、商品化の試みは頓挫した。ビールの発売日や価格は未定だ。

 キトの飲み物に関する著書のある歴史学者ハビエル・ゴメスフラド(Javier Gomezjurado)氏によると、聖フランシスコ修道院(San Francisco Convent)には中南米初の醸造所があった。1566年に操業を開始したが、当時の修道院には8人しか修道士がおらず、生産量はごくわずかだったという。

 醸造業の機械化が進むにつれ、古くから伝わる製法は姿を消し始め、修道院の醸造所も1970年に閉鎖された。(c)AFP/Paola LOPEZ