【8月14日 AFP】ロシア軍の攻勢が続くウクライナ東部ドンバス(Donbas)地方。そのあちこちで、戦況などまるで関係なく生活を続ける人々がいる。古い自転車を押して行き交う中高年や高齢者だ。

 砲弾が雨あられと降り注ぎ、装甲車が市街を走り抜けても、自転車に乗る市民は逃げもしない。その様子は、周囲に奇妙な日常感をもたらしている。

 トレツク(Toretsk)に住むオタリ・イウナシウイリさん(77)は「今のところ、自分には何にも当たっていません」とほほ笑んだ。

 同市では、4日にもロシアの空爆でバス停にいた8人が死亡。夜には商店街が爆撃を受けた。

 朝になると、重機を使ってがれきの撤去が行われる。歩道が清掃される間も、遠くでは砲弾が鳴り響く。家財道具を山積みにした車が町を走り去る中、高齢者たちは自転車のハンドルに寄りかかり、その様子を眺めていた。

 以前は鉱山で働いていたというオレクサンドルさん(60)は、女性用自転車のハンドルを握り、「車は持っていないし、まだいろいろやることがありますから」と肩をすくめた。「もちろん危険は感じている」としながら、「私が撃たれても誰が気にするでしょう?」と続けた。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は先月末、ドンバス地方の住民に強制避難を命じたが、今なお数十万人が残っているとされる。その中には高齢者も多く、避難を望んでも頼れる家族や資金がない人もいれば、頑として地元を離れようとしない人もいる。

■「不安はありません。私たちの軍隊がいますから」

「自転車に乗るのは健康にいいが、車の運転をするのはストレスだ」と言うウォロディミルさん(74)。自宅で飼っているアヒルとニワトリの餌にするため、高速道路の脇で草取りをしていた。クラマトルスク(Kramatorsk)の車道沿いに自転車を止めていた。

 欧州で第2次世界大戦(World War II)以降最大の戦争が起きているさなかに、自転車といったのんきな移動手段を使っていることについて尋ねると、憤然とした様子で「大丈夫です」という答えが返ってきた。

「何かあったとしても、ひと思いに死ぬ方がましです」

 ドンバスで自転車に乗る人々は、この地域で8年前から続く紛争によって精神的に鍛えられている。

 40年前に製造された旧ソ連製の自転車を押しながら歩いていたビクトル・アレクセービチさん(62)は、「不安はありません。私たちの軍隊がいますから」と話した。もしもミサイルが落ちてきたら?──「茂みに隠れますよ」 (c)AFP/Joe STENSON