【7月24日 AFP】ウクライナ東部ドネツク(Donetsk)州クラマトルスク(Kramatorsk)のすし店で働くイーゴリ・ベスフさん(23)は、空襲警報のサイレンをかき消すため、店内に流している音楽のボリュームを上げる。だが、今月15日に市内中心部がミサイルで攻撃された際の耳をつんざくような音は隠しようがなかった。

 クラマトルスクは、ロシアが制圧を目指すドンバス(Donbas)工業地帯の最前線からわずか20キロ。ベスフさんが働いているすし店「Woka」は、この町で今も営業を続ける数少ない店の一つだ。

 午後8時ごろ、爆音を聞いた従業員たちはすぐにシェルターに避難した。20分後、赤い壁とアジア風のデザインが特徴的な店に戻ると、窓やドアのガラスはベニヤ板が打ち付けてあったにもかかわらず、すべて割れていた。

「大きな音でした。もちろん(爆撃を受けるとは)思ってもみませんでした」

 翌日、仕事に来るのは大変だったと言うベスフさん。だが、「戦争は戦争、でも昼食は時間通りに出さなければならない」という言い習わしを笑顔で口にした。

■侵攻後もずっと営業

 今の主な客は、クラマトルスクに駐留する兵士や前線から戻ってきた兵士だ。侵攻開始前には約15万人が住んでいた町は、今や常時、砲撃の脅威にさらされている。

 4月には駅が空爆され、50人以上が死亡。今月7日にもホテルが空爆され、1人が死亡した。

 AFPが「Woka」を取材したのは15日の攻撃直前。翌日訪れると、がれきはすべてが片付けられていた。窓やドアは再びベニヤでふさがれ、カウンターには注文の品が積まれていた。

 2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以来、毎日営業を続けてきたこの店で、ベスフさんは巻きずしを作っている。

「Woka」は2016年に開業。侵攻前は28人いた従業員が、今では7人しかいない。

 ベスフさんは料理人として首都キーウやアゾフ海(Sea of Azov)沿岸で働いた後、故郷のクラマトルスクに戻ってきた。入隊を考えたことは?という質問には、「どうして? 経験もないし、役にも立たないのに」と笑った。

 夢は、いつか自分の店を持つことだ。「ここでは、それなりに(自分も)役に立っています」と付け加えた。

 今は安全上の理由から、店内で食事はできず、テークアウトと配達専門だ。市内中心部の「平和広場」にミサイルが着弾する数時間前、店主のドミトリ・プレスカノウさんはこう語った。「もしミサイルが店に落ちたら、そこまでの責任は私たちには負えませんからね」 (c)AFP/Nicolas GARCIA