【7月18日 AFP】元気いっぱいの4歳の女の子が楽しそうに、どこか誇らしげに自分のベビーカーを押して歩いている──その動画は、母親がダウン症の娘の日常を撮影したものだった。約1時間後、女の子はロシア軍のミサイル攻撃を受け、短い人生の幕を閉じた。

 現場となったウクライナ中部ビンニツァ(Vinnytsia)の路上には、ピンク色のベビーカーが転がっていた。

 リザ・ドミトリエワ(Liza Dmitrieva)ちゃんは14日、母親のイリーナさんと一緒に、市内の治療センターに向かっていた。人口37万人のビンニツァは首都キーウから250キロ、最寄りの前線からも数百キロ離れている。戦時中とはいえ、恐れる理由は特になかった。

 午前9時38分にソーシャルメディアに投稿した動画で、イリーナさんは娘に「どこに行くんだっけ?」と問い掛けている。肩に白い花が刺しゅうされた水色の上着に白いレギンスを着たリザちゃんは、後ろで結われた金髪を揺らして「アラ!」と答える。

「アラ」はウクライナで一般的な女性の名前だ。「アラに会いに行くの?」とイリーナさんに重ねて尋ねられ、リザちゃんは再び「アラ!」と言っていたずらっぽい笑みを浮かべる。

■SNSのスター

 ビンニツァを攻撃したのは、黒海(Black Sea)からロシア軍の潜水艦が発射したミサイルだった。市中心部に命中し、リザちゃんら子ども3人を含む23人が死亡した。イリーナさんは片脚を失った。

 イリーナさんは、インスタグラム(Instagram)にリザちゃん専用のアカウントを開設し、娘の快挙やさまざまなことに挑戦する様子を日々投稿していた。リザちゃんはソーシャルメディアの人気者で、アカウントは2万人近いフォロワーを集めていた。

 14日の恐ろしい攻撃の衝撃が世界に広がる中、フォロワー数は15日には8万人に増えた。

「わが子のお手本になれて、本当にうれしい。ダンスや身ぶり手ぶりから、鏡の前でのポーズまで、日常生活のあらゆることをまねしてくる」と、イリーナさんはある投稿の中で語っていた。

 ウクライナ大統領夫人のオレナ・ゼレンスカ(Olena Zelenska)氏は15日未明、地元当局が公開したベビーカーの写真を見て、持ち主が面識のあるリザちゃんだと知り「ぞっとした」と語っている。

「ニュースを読んで、この女の子を知っていると気付いた。会ったことがある。彼女を殺害した人たちに言いたい言葉を書き切れない」とオレナ夫人はインスタグラムに記した。

 オレナ夫人によると、リザちゃんとはクリスマスを祝う動画の撮影で一緒になった。「この小さな女の子は、たった30分で自分自身と着ているドレスだけでなく、他の子どもたちや私、カメラマン、監督まで絵の具まみれにしてのけた」と当時を振り返っている。

 夫人はインスタグラムで公開したメッセージ動画で、「生きている彼女を見てあげてほしい。私は彼女を愛する人たちと一緒に泣いている」と訴えた。(c)AFP/Frankie TAGGART