■時期尚早

 カテリーナ・パブリチェンコ(Kateryna Pavlichenko)内務次官は、キーウ州で活動中の警察の専門チームが、ロシア兵から性的虐待を受けたとされる被害者13人を特定したと発表した。

 しかし、ウクライナ軍に所属する心理学者ナタリア・ザラツカ(Natalia Zaratska)氏は、警察が被害者を捜すのは時期尚早だと考えている。「半年後に、被害者が記憶の整理ができるようになってから話を聞く方がいい」

 ザラツカ氏は少なくとも週3回、首都キーウ近郊のブチャ(Bucha)に通っている。町を占領していたロシア軍の撤退後、後ろ手に縛られて射殺された住民の遺体が見つかり、その残虐ぶりの代名詞と化したブチャでは、ロシア兵による性暴力のうわさがあちこちでささやかれている。

 配管工の男性(45)は「1か月間ずっと、救急車で運ばれてくるのはこの問題を抱えた女性だけだったと医師から聞いた」とAFPに語った。

■「口にしないのが一番」

 ブチャにある正教会のアンドリー・ハラビン(Andrei Halavin)司祭は、信者との対話の進め方を模索中だ。「それについては口にしないのが一番だ」と言う。「人々は生活を続けなければならないのだから」

 ただ、性暴力の被害者は信仰を逸脱したわけではないと語り、信者を安心させようとしている。「レイプされたことは罪ではない、と言わなければならない」

 ザラツカ氏は、ロシア軍の占領下で経験したことを住民から聞くためブチャに通い始めてすぐ、レイプ被害者を紹介されるようになった。地域で働く心理学者は3人いるが、とても足りないという。「12~16人は必要だ」

 被害体験を打ち明けるのをためらう人が多いと、ザラツカ氏も指摘する。「戦時下のレイプは拷問の一つだと理解してくれる人が周囲にいて初めて」被害の告白が可能になるとし、証言が慎重に扱われることを保証する必要もあるという。

 複数の政府高官がレイプや性的虐待の申し立てについて生々しい詳細を公表し、物議を醸している。そのうちの一人は政府の人権オンブズパーソンの女性委員で、少女が台所用品で虐待された事件について明らかにした後、辞職した。

 ザラツカ氏は「完全な倫理違反だ」「第二のトラウマになりかねない。社会がこの問題にもっと敏感であれば、もっと多くの被害者が声を上げるだろう」と語った。(c)AFP/Charlotte PLANTIVE