■見落とされた海洋安全保障

 ウクライナ陸軍は、兵力と装備で上回る敵を相手に粘る力があることを証明した。しかし、制海権はロシア軍がほぼ手中に収めている。

「残念ながら、ウクライナは伝統的に、海洋安全保障の問題を見落としてきた」。同国のアンドリー・ザゴロドニュク(Andriy Zagorodnyuk) 元国防相は、米シンクタンク「大西洋評議会(Atlantic Council)」の報告書でこう指摘した。「民主主義世界は、陸上でのロシアの侵略に対抗するためウクライナの武装化に取り組んできたが、海上での戦争への国際的な関与は陸上と比べて限られている」

 ウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は先週末、「ウクライナへの航路を解放しなければ、食料危機が起きるだろう」と述べ、ロシアを倒し海上封鎖を終わらせるための「適切な兵器」を提供するよう国際社会に訴えた。

 だが、たとえ必要な兵器が供与されたとしても、戦闘が激化すれば貿易再開までには何か月もかかるだろう。海運会社が紛争地帯に船団を送るとは考えにくい。

 マトゥリャクさんのように旧ソ連に生まれ、かつてロシアと兄弟のような絆を感じていた農業従事者にとって、今回の紛争とその影響について心の折り合いをつけるのは難しい。

「もちろん、すべての問題が外交的・平和的な手段で解決できればよい。しかし、人々の持つ普通の価値観を、ロシアが理解していないことを私たちは目の当たりにしている」と、マトゥリャクさんは語った。(c)AFP/David STOUT