【5月25日 東方新報】中国でマンションの住民がベランダで野菜を育てる「ベランダ菜園」が流行している。オンラインサイトでは野菜の種子の売り上げが1年間で倍増。「新100億元(約1921億円)市場」と言われるほどの人気ぶりだ。

 オンラインモール「天猫(Tmall)」によると、ベランダ菜園が広まっているのは、北京市や上海市、広東省(Guangdong)広州市(Guangzhou)、製造業の多い広東省東莞市(Dongguan)と江蘇省(Jiangsu)蘇州市(Suzhou)など、大都市の中でも若者層が多い都市が目立つ。

 日本では家庭菜園というとリタイアした高齢者が多いイメージだが、ベランダ菜園は20~30代が中心。バケツやプラスチックの箱に土を入れ、成長が早いレタスや手間のかからないニラをはじめ、香菜(中国パセリ)、唐辛子、トマト、タマネギ、ニンニクなどの栽培が人気という。

 ネットショップで種子を販売している秦淮(Qing Huai)さんは「1月の売り上げは10万元(約192万円)、2月は15万元(約288万円)、4月には30万元(約576万円)になりました」とホクホク顔で話す。

 中国のSNS「微博(ウェイボー、Weibo)」では野菜の基礎知識、種子の選び方、栽培のコツなどの書き込みが6万件以上あり、「#陽台種菜(ベランダ菜園)」とハッシュタグのついた関連投稿は7300万回も閲覧されている。

 急激なベランダ菜園ブームは新型コロナウイルスの影響がある。中国では新型コロナウイルス感染者が現れた都市は厳しい外出制限措置が行われる。最近では上海市で3月下旬から、自宅のドアからも出られないほどの外出制限が行われた。行政が食料や生活用品を配給しているが個別の家庭のニーズまで満たしているとは言えず、インターネット上では「ネットショップで食料を注文しようと朝から晩までスマホを見続けているが、全然注文ができない」という嘆きの書き込みが見られる。ベランダ菜園の広がりは、そうした非常時に備えた生活防衛の意識がきっかけとなっている。

 ただ、ベランダ菜園で育てられる野菜はごく少量で、コロナ禍はあくまで「きっかけ」にすぎない。中国メディアは「新型コロナにおびえ、外出もままならずストレスを抱える中、野菜を栽培する行為が『癒やし』の効果をもたらしている」と分析。花を育てるのに比べ、野菜は栽培して収穫し、そして食べるという一連の過程が「生きている」実感をより与えるという。

 ベランダ菜園が若者をひきつける理由は他にもある。SNSの投稿だ。中国で若い女性を中心に人気のSNS「小紅書(Red)」やショート動画投稿プラットフォーム「抖音(Douyin)」などで、ベランダ菜園の投稿が目立つ。中国の若者の間では競争のように「映える」投稿をするのが流行している。景観が美しい観光地を訪れた投稿が定番だが、コロナ禍ではそれも難しい。ベランダ菜園は「文化的でおしゃれなワタシ」をアピールするツールにもなっているようだ。(c)東方新報/AFPBB News