【5月16日 東方新報】ライブ演奏を聞きながら酒を楽しむバーがひしめき、多くの外国人でにぎわう北京・三里屯(Sanlitun)。東京の六本木にも例えられるおしゃれスポットには、矯正歯科の看板も見かける。半径500メートル以内に10か所以上のクリニックがある。

 あるクリニックの歯科医師は「矯正歯科と言えば子どもの歯並びをワイヤで矯正するイメージだが、うちに来る人は20代や30代ばかり。忙しくて当分先まで予約で埋まっていますよ。矯正歯科は医療から美容の時代になっています」と話す。

 このクリニックの業務は透明なマウスピースを装着する矯正や、薄いセラミックの板の貼り付け、インプラントなどが主流で、歯科医師は「1件あたりの単価も粗利益も高いので、収入は多い」と打ち明ける。

 中国では近年、「顔値(顔面偏差値)」という言葉が定着している。「見た目が良い人はパートナー選びで有利なだけでなく、就職先や生涯収入にも影響する」と言われ、その流れで矯正歯科も一つの流行となっている。急激な経済成長に伴い、若者の消費力が高まった象徴とも言える。中日友好病院口腔(こうくう)医学センター主任で北京大学(Peking University)口腔医学教授の徐宝華(Xu Baohua)氏は「先進国と比べ、中国では歯科矯正を受ける人の割合はまだ低い。これからも大きな伸び代がある」と説明する。

 コンサルティング会社の灼識諮詢(CIC)によると、中国で矯正歯科の診療件数は2015年の160万件から2020年には310万件とほぼ倍増し、2030年には950万件に達すると予想されている。その市場規模は2105年の34億ドル(約4385億円)から2020年に79億ドル(約1兆188億円)に成長し、2030年には296億ドル(約3兆8172億円)に達すると推計されている。

 ただ、専門の矯正歯科医師は圧倒的に不足している。2020年で米国には1万800人の矯正歯科医師がおり、人口10万人当たりでは3.3人。一方で中国の矯正歯科医師は6100人で、10万人当たりでは0.4人にとどまる。しかも多くの矯正歯科医師は北京市や上海市、広州市(Guangzhou)など沿岸の大都市に集中している。内陸の地方都市などでは、一般の歯科医師が「矯正歯科」の看板を掲げているケースも多い。

 矯正歯科に通う人が増えるにつれ、「大金を支払ったのに矯正に失敗し、後遺症が残ってしまった」というトラブルも増えてきた。中国メディアは「矯正歯科に絞った診療基準や関連規制が乏しいためトラブルが起きやすい。行政や業界が対策を進めるべきだ」と指摘している。(c)東方新報/AFPBB News