森の湧き水が命綱 ウクライナ東部前線の町
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【5月15日 AFP】包囲下にあるウクライナ東部の町リシチャンスク(Lysychansk)の森の中で、地面から突き出たパイプをつたって水がしたたり落ちている。この水は、やせ細ったれんが職人一家9人の最後の命綱だ。
アルチョーム・チェルハ(Artyom Cherukha)さん(41)はしゃがみ込み、プラスチックボトルに湧き水をためる。頭上では、ロシアとウクライナ両軍の間で砲弾が風を切って飛び交う音が聞こえる。
木々に覆われた谷地の上。わずか数歩先の枝には、人間ほどの大きさがある旧ソ連製BM27多連装ロケットランチャー「ウラガン(Uragan)」ミサイルの最後尾部がぶら下がっている。
だがチェルハさんは、頭上のミサイルが死と破壊をもたらすかもしれないという事実に関心がないようにみえる。
「まったく無感覚になっています。精神的に飢餓状態です。肉体的には言うまでもありませんが」と抑揚のない声で言い、「ここに座って爆弾を数えています」と付け加えた。
■湧き水は「救い」だが…
ウクライナ東部の前線にあるいくつもの工業地帯では、貯蔵室や地下室に無数の住民が隠れている。こうした人々にとって、飲料水や食料を入手することは確実に難しくなっている。
閉じ込められた住民たちは、日の光を一目見ようと、あるいは湧き水をくもうと外に出る。そして、衝撃を受け、ぼうぜんとする。
「市内には水が通っていません。ここにしかないから来ました」。溶接作業員だという男性は、言葉を詰まらせながら語った。市当局は、断水の原因は不明で、戦闘がやむまで修復できないとしている。
湧き水は、救いにはなっている。だがこの一帯は、東欧圏で最も汚染の激しい地域の一つだ。地下水はまず、化学薬品が染み込んだ土を透過する。
元水兵だという住民の男性はこう言った。「まあまあきれいに見えますが、誰も検査していません。何が入っているのか、誰も知りません」 (c)AFP/Dmitry ZAKS