【5月11日 東方新報】中国では最近、「DINK(Double Income No Kid)」という言葉が定着するようになった。子どもを持たない共働きの夫婦のことで、割と裕福な層を指す場合が多い。夫婦共働きは中国では以前から当たり前なので、「子どもがいない」ことに力点が置かれている。日本でもバブル経済華やかなりし1980年代に流行した言葉で、子どもを複数形(KIDS)にして「DINKS」と言われていた。「KID」と単数形にするのは、1人っ子政策が長く続いた中国らしい。

 中国では、「結婚すれば子どもを持つのは当たり前」「親の老後は子どもが面倒を見る」という伝統的価値観が根強くある。また、1人っ子を大切に育ててきた親たちの影響力は、子どもが成長した後も強い。年配の親に「早く結婚して孫を見せてくれ」「結婚したんだから、早く子どもを。誰が老後を世話してくれるんだい」と言われると、結婚・出産適齢期の子どもはそれを望んでいなくても、面と向かって伝えることが難しい。しかし社会の急速な変化と共に、子どもを持たずに自分たちの人生を謳歌(おうか)することを大切にするDINK夫婦が少しずつ増えてきている。

 上海市に住む28歳の女性、王さんは結婚して数年たつが、子どもを産むつもりはないという。「ようやく仕事が充実してきて、いま出産するとキャリアが途絶えてしまう。映画を見たり高級レストランで食事をしたりする自分たちの時間も楽しみたい。年を取ったら介護施設に入ればいい」。これはDINK家庭を代表する声と言える。

 中国では大学や大学院を出てから1~2年かけて就職先を見つけ、20代半ばで社会人スタートとなる若者も多い。20代後半や30歳ごろはようやく仕事が軌道に乗る時期となる。起業する若者も多い。経済成長により若者の消費力が向上し、文化的生活を謳歌したい意識も高まっている。

 2021年の中国の出生数は1062万人で、死亡数は1014万人。わずかに人口増が続いているが、出生数は5年連続で減少しており、早ければ今年中にも「人口減少時代」に突入すると言われている。

 中国政府は昨年、学校の宿題と塾通いの両方を減らす「双減」政策を打ち出した。過熱する受験戦争に歯止めをかけると共に、1人当たりの教育費を減らし、子どもを出産しやすい環境を整えようとしている。中国では日本の「ゆとり教育」について「学力低下を招き、失敗だった」「現在の日本の経済的低迷につながった」という認識が多い。それだけに双減政策についても同様の懸念が出ているが、そうしたリスクを背負ってでも出生数増加を目指すことが国策となっている。子どもを産んだ家庭には3歳まで毎月500元(約9684円)の補助金を支給するなどの支援策を打ち出す自治体も増えている。

 中国人民大学(Renmin University of China)労働人事学院社会保障学部の王天宇(Wang Tianyu)副教授は「育児費用の軽減は、収入が低い家庭や地域には効果がある」としながら、「ただ、出産を考える夫婦にとって、育児費用は一つの要因にすぎない」と指摘。同大学の調査によると、1人目の子どもをつくるかどうか決定する際、多くの夫婦は育児費用を重視しておらず、2人目を産むかどうかも夫婦の「好み」によるという。出産の問題は、「どのような人生を過ごしたいか」というライフスタイルに直結しており、政策の誘導により出生数を増やすことは簡単にはいかないようだ。(c)東方新報/AFPBB News