「太陽を再び見られるとは」 死を覚悟の製鉄所脱出 ウクライナ
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【5月8日 AFP】「太陽を再び見られるとは思っていなかった」。ウクライナ南東部の港湾都市マリウポリ(Mariupol)のアゾフスターリ(Azovstal)製鉄所に避難していたマルガリータさん(23)は、民間人の退避用のバスに乗ろうとした際、最後の瞬間まで死を覚悟していた。
氏名を公表しないことを条件にAFPの取材に応じたマルガリータさんは「爆弾が当たるなら即死させて、と願っていた。体が損なわれるのはいやだ。血を流し、死に至るのではないかとも恐れていた」と語った。
脱出するためにはしかし、ロシア側が身元や所属などを調べる施設を通過しなければならなかった。救出された複数の民間人はAFPに、衣類を脱いでの検査や指紋の採取、携帯電話や身分証明書などのチェックを何度も受けたと証言した。
マルガリータさんにとっては、特に危険を伴うものだった。父親と夫は共に、ロシア側に敵視されている、ウクライナ軍の精鋭部隊「アゾフ連隊(Azov Regiment)」のメンバーだからだ。
正直に話す姿勢を見せることが脱出の可能性を高めるだろう。夫の情報もすでに把握されているはずだ。マルガリータさんは検査担当者に質問された際、夫の所属についてあえて反論しなかった。
■犯罪者扱い
マルガリータさんはウクライナ支配下のザポリージャ(Zaporizhzhia)に向かうための最後の関門を通過する際、パスポートの返却を求めた。そこで、ロシア側のアゾフ連隊に対する敵意がむき出しになった。
「なぜパスポートが必要なんだ。お前の夫の遺体が入った袋にパスポートを入れて送り返してやる」
内臓が飛び出して死んだ夫の写真も送ってやると、ののしられた。
製鉄所から救出された複数の女性は、ロシア側の女性担当者に脱衣を求められ、入れ墨や傷跡の有無を確認された。さらに顔写真を撮影され、政治思想から母親の旧姓まで幅広く質問されたと訴えた。
やはり匿名を条件に語ってくれたナタリアさんは、ロシアに行きたいのか、東部の親ロシアの「ドネツク人民共和国」にとどまりたいのか、それともマリウポリで街の再建に取り組みたいのかを問いただされた。
「マリウポリはもはや存在していない。どのようにして再建したり、戻ったりできるというのか」と嘆いた。
元製鉄所労働者エリナ・ツィブルチェンコ(Elyna Tsybulchenko)さん(54)は「指紋を採取され、『左を向け』『右を向け』『ここを見ろ』と、まるで犯罪者のような扱いだった」と憤った。
ナタリアさんは「彼ら(ロシア側)は機関銃が搭載された装甲車のそばで私たちに対する質問を続けた。なんて答えればいいのか。ウクライナに行きたい、それは自分の祖国だからと言うしかなかった」と振り返った。
■数時間の留め置き
マルガリータさんによれば、ロシア側は取り調べの際、「人々を脱出させたい」として、製鉄所の地下壕(ごう)がどこに位置しているのか詳しく説明するよう求めた。女性の中にアゾフ連隊や軍に所属する男性の妻がいるのに気づき、情報を引き出そうとしたようだ。
マルガリータさんは担当者に対し、夫とは離れ離れになっていたと言うのが得策だと判断し、そう説明した。携帯電話の中身を調べられた際にはただ、マルガリータさんが夫に愛していると伝えたメッセージを見つけられた。結局、4時間にわたって尋問されたという。
アゾフスターリ製鉄所から逃れた人を乗せた白いバスが複数台、ザポリージャに到着すると、大勢のジャーナリストや人道支援関係者、知人らが詰め掛けた。
アンナ・ザイツェワ(Anna Zaitseva)さんは、生後6か月の赤ちゃんを抱いてバスから降りた。ハグやキスで迎えられ、涙ぐんだ。
「私たちを助けてくれたすべての人に感謝している。希望を失った時もあった。忘れられてしまったと思っていた」(c)AFP/Joshua MELVIN