■殺された夫の遺体を捜して

 ジボトウスキーさん親子の運命はやがて、通りの向かいに暮らしていたリュドミラ・キジロワ(Lyudmyla Kizilova)さん(67)と交差する。

 キジロワさんはAFPに対し、3月4日に夫をロシア兵に殺されたと語った。夫の死により取り乱していたキジロワさんの様子を知ったジボトウスキーさんは、ロシア兵に対し、通りを渡らせて自分の家に来させるよう懇願。キジロワさんはその後、ジボトウスキーさんの家の地下室で数日間過ごした。

 キジロワさんは、夫のワレリー・キジロフ(Valerii Kizilov)さん(70)と自宅の地下室に避難して生活していた。その日、夫が外に出た直後、銃声が響いた。静寂が続いた後、兵士が「下に誰かいるなら出てこい。手りゅう弾を投げ込むぞ」と叫んだ。

 ロシア兵は姿を見せたキジロワさんに、夫の身に何が起きたのかは教えてくれなかった。地下室に戻され、絶対に出てくるなと命じられた。

 暗くなるのを待ち、懐中電灯を手にこっそり自宅の周りを捜し、夫の遺体を見つけた。「頭を撃たれて倒れていた。血だらけだった」

 夫の遺体は3月9日、ロシア兵によって庭に埋められた。その後、ロシア兵は夫妻の家から略奪したウイスキーをグラスに注いで差し出したが、キジロワさんは受け取らなかった。翌日、ブチャを離れ、夫のいない人生を歩み始めた。

「夫なしでどうやって立ち直ればいいのか。すべてがゼロからのスタートだ」とキジロワさんは語る。「若ければ、少なくとも何かを立て直そうという希望が持てただろうけれど」