【5月5日 AFP】ワレンチナ・オチェレトナ(Valentyna Ocheretna)さんは、もう何週間も息子のサーシャさんからの電話を待ち続けている。サーシャさんは3月、ウクライナ南東部の要衝都市マリウポリ(Mariupol)でロシア軍との戦闘で負傷した後、音信不通となった。

 サーシャさんは8年前からウクライナ軍の精鋭部隊として名高い「アゾフ連隊(Azov Regiment)」に所属して戦ってきた。同連隊は当初、極右の義勇兵が集まる大隊だったが、後にウクライナ国家親衛隊に統合された。

 首都キーウでAFPの取材に応じたオチェレトナさんは「息子は自分の国を守ることを選んだ。そのことは誰も責められない」と語った。

 アゾフ連隊は、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領によるウクライナ批判でたびたび引き合いに出され、同国からナチス(Nazis)を排除するという主張の根拠とされてきた。しかしウクライナ国内での評価は概して高く、ロシアによる領土侵害と戦い続けてきた功績がたたえられている。

 キーウでは今週、マリウポリのアゾフスターリ(Azovstal)製鉄所でロシア軍と戦うアゾフ連隊などへの支援を訴える集会が開かれた。参加者の多くは隊員の家族や友人で、中には同連隊が使う「ヴォルフスアンゲル(Wolfsangel)」と呼ばれる紋章入りのウクライナ国旗を振る人もいた。この紋章は、第2次世界大戦(World War II)中にナチス親衛隊(SS)が使用したものと酷似していることから、悪名をはせている。

 アゾフ連隊については主に国外から批判の声が上がるが、国内の支持派は、同連隊はファシストと戦っているのであり、支持しているわけではないと主張する。キーウ在住の起業家男性(32)は「過激な思想を持っていたら、軍から追い出されているはずだ。極右の急進主義や過激主義はうかがえない」とし、「彼らは単に、ウクライナの英雄だ」と語った。

 マリウポリ在住の女性(47)も、戦火にさらされた同市の市民にアゾフ連隊が食料や物資などを提供したことに言及。ロシア軍が民間人を殺害したとされるキーウ近郊のブチャ(Bucha)を引き合いに出し、涙をこらえながら「アゾフの人々がいなければ、ここもブチャのようになっていた」と語った。「ナチスと呼ばれるべきなのはロシアだ」

 アゾフ連隊は2014年、東部ドンバス(Donbas)地方の親ロシア派武装勢力と戦うために結成され、一躍脚光を浴びた。ウクライナは当時、南部クリミア(Crimea)半島がロシアによって併合され、混乱状態に陥っていた。

 アゾフ連隊は創設当初、ネオナチ(Neo-Nazi)のシンボルを取り入れ、極右団体との関係を維持していた。だが後に強硬思想を弱め、ウクライナ軍に統合された。

 キーウ在住の政治アナリスト、ウォロディミル・フェセンコ(Volodymyr Fesenko)氏は「アゾフ連隊はウクライナ国家親衛隊の一部であり、もはや独立した準軍事組織ではない。右翼や急進派の政治家とのつながりは過去のものだ」と説明している。(c)AFP/David STOUT