【4月30日 AFP】イタリア・ベネチアで開幕した「第59回ベネチアビエンナーレ(Venice Art Biennale)国際美術展」。アーティストのパウロ・マコウ(Pavlo Makov)氏(63)は、ウクライナを代表して作品を出展している。ロシアによる侵攻からほぼ身一つで避難して来たマコウ氏の参加は、戦時における芸術の役割を問い掛けるものとなった。

「自分では、ウクライナ出身のアーティストというより、ウクライナ国民であると強く感じています」と語るマコウ氏。展示されたインスタレーション作品は、ピラミッド形に設置された薄青のじょうご78個から成る。じょうごを通る水がゆっくりと下の盆に流れ落ち、その音が静寂な空間にこだまする。

The Fountain of Exhaustion(枯渇の泉の意)」と名付けられた作品について本人は、「現代に生きることを表現した」と説明する。「アートが世界を変えられるとは思いません。でも私たちはアートの助けで生き延びることができるのです」

 国別のパビリオンでは58か国、213人のアーティストの作品が展示されている。

 マコウ氏は「今、私たちがロシア文化と対話できる場所は一か所だけ、前線です」と語る。

■歴史の激動を記録する

 マコウ氏の作品は、キュレーターのマリア・ランコ(Maria Lanko)氏によってキーウから運び出された。侵攻が始まった2月24日に車でキーウを出発し、6日間かけてルーマニア、ハンガリー、オーストリアを通ってイタリアに到着した。

 メイン会場のジャルディーニ(Giardini)近くにあるロシア館の中は空だ。ロシアのキュレーターとアーティストは、自国によるウクライナ侵攻を受け、参加を辞退した。アーティストの一人は「民間人が死んでいるときにアートどころではない」と述べた。

 主催者側はこの動きを支持し、ロシア政府関係者全員を美術展と関連イベントから締め出した。ロシアに対する世界的な文化的ボイコットに加わった形だ。

 マコウ氏自身は、92歳の母親を含め家族と一緒にウクライナを後にし、今はオーストリアに滞在している。急いで荷造りをしたので「持ち出せたのは必要書類と現金だけ」だったと話した。

 昨年は新型コロナウイルス流行のために開催されなかったビエンナーレの会期は、11月27日まで。今年のテーマは「ザ・ミルク・オブ・ドリームズ(The Milk of Dreams、夢のミルクの意)」だ。イタリア人のキュレーター、セシリア・アレマニ(Cecilia Alemani)氏によると、女性やノンバイナリーのアーティストが多数を占める。

 アレマニ氏は「ビエンナーレの別の役割は(中略)歴史の激動を記録することです」と語った。(c)AFP/Kelly VELASQUEZ / Rebecca GNIGNATI