塗りつぶされても恐れない、平和の壁画描く画家 ロシア
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【4月19日 AFP】ロシアの首都モスクワから車で2時間の場所にある人口約1万人のボロフスク(Borovsk)。元エンジニア、ウラジーミル・オフチニコフ(Vladimir Ovchinnikov)さん(84)は、この小さな町で何十年も前から建物の壁に絵を描いてきた。だが、ロシアがウクライナに侵攻して以来、ウクライナや平和をテーマにした絵を描くと塗りつぶされるようになった。
最近、近郊の村の以前は店舗だった建物に立ち寄ったところ、壁に描いた青と黄のウクライナ国旗が白いペンキで塗りつぶされているのを見つけた。
鉛筆を取り出し、その上にハトの絵を描き始めた。すると、住民の男性がやって来て「警察を呼ぶぞ」と言われたという。
だが、オフチニコフさんは絵を描く試みを続けることに恐怖は抱いていない。「この年になると、何も怖くない」と語った。
ボロフスクでは、ウクライナ国旗の色の服を身に着けた少女の頭上に爆弾が三つある絵を描き、3万5000ルーブル(約5万4000円)の罰金を科された。この絵も白く塗りつぶされたが、オフチニコフさんはその上に1羽のハトを描いた。
罰金が科されたオフチニコフさんに、150人以上から寄付が集まった。
オフチニコフさんは、ボロフスク周辺では知られた存在だ。
1942年にナチス・ドイツ(Nazi)から町が解放されたことを記念して描いた絵の1枚は、町内の徴兵事務所の壁に飾られている。
最近手掛けた壁画の一つでは、ロシアとウクライナの国旗の色のリボンを髪に飾り、手をつないだ2人の女性を描いた。この絵は今のところは塗りつぶされていない。
「(ウクライナとの)友情は壊れてしまった。こんな時代もあったのにと懐かしむことしかできない」とオフチニコフさんは言う。
オフチニコフさんは、以前から絵に政治的な要素を込めている。
2003年にたまたま手にした本の中で、旧ソ連時代に弾圧され、ボロフスクがあるカルーガ(Kaluga)州で銃殺されたり、強制収容所に送られたりした人のリストを見つけた。
「身の毛がよだった」
オフチニコフさんは、犠牲になった人の名誉を法的に回復する運動を始めたが、申請は繰り返し却下された。
オフチニコフさんの父、アレクサンドルさんは1937年、「君主主義とトロツキー主義」を推進したとして強制収容所に送られ、10年間を過ごした。アレクサンドルさんは1956年、ボロフスクに移住した。
オフチニコフさんは、ロシア社会が新たに「分断」されつつあり、「非常に悪い方向」に進みかねないと懸念している。一方で、平和を促進する芸術の力を信じており、これからも絵を描き続けるつもりだ。
「私が絵を描くのは、自分なりの理解を示すため。そして多分、他の人に影響を与えるためでもある」と話す。
「政治に無関心な人」「何が起きているかを知らず、ただテレビの前に座っている人のために」 (c)AFP/Romain COLAS