【4月18日 東方新報】「PCR検査はこちらで受けられます。スマホのアプリにご自分の健康情報を入力できましたか? お手伝いしますよ」

 新型コロナウイルス感染症の拡大が続く中国・上海市。防護服を着た中国人女性が流ちょうな日本語で日本人の手助けをしている。日本で10年間生活した経験がある孫冉(Sun Ran)さんだ。

 孫さんは、日本領事館のある上海市浦西(Puxi)地区の婁山関路(Loushanguan Road)で暮らしている。3万人の日本人が暮らす上海で、最も多くの日本人が住む地域だ。孫さんが住む小区(マンション群)の住人約1500人のうち、日本人が4分の1を占める。

 上海市は3月からコロナ禍に見舞われ、オミクロン株の感染者数は増え続けている。市全域で順番に封鎖管理措置が取られた。外出できるのは電気、水道、食料配達、医療などに関わる人のみ。住民は自宅のドアを開けることもできず、外出できるのは毎日のPCR検査を受ける時ぐらいだ。

 そんな中、孫さんは夫と一緒に小区のボランティアになり、日本人の通訳を始めた。「初めてPCR検査をしていた時、多くの日本人が健康情報を入力するアプリのQRコード操作ができないのを見て、お手伝いをしました。私が日本で生活を始めた時、たくさんの日本人が助けてくれた恩返しがしたかったんです」

 孫さんは中国のSNS「微信(ウィーチャット、WeChat)」を通じて地元の日本人と連絡を取るようにした。すると、同じマンションに住む一人暮らしの日本人男性が「食糧が全くない」と窮状を訴えてきた。食料は各地域で配給されているが、外国人であるその男性は配給網に入っていなかったようだ。日ごろは外食ばかりで、自宅には鍋もないという。「ご近所さんを飢えさせるわけにはいかない」。孫さんはまず自宅で使っていなかった炊飯器を貸し出し、さらにマンション内の他のボランティアから食料を集めて男性の元へ届けた。

 上海市内では連日2万人に及ぶ新規感染者が続き、4月5日に解除される予定だった浦西地区の封鎖管理は継続された。地域の日本人から「食料がない」という声が相次ぎ、孫さんはネットスーパーから食料を共同購入する微信のグループチャットを立ち上げた。

 インターネット社会の中国ではスマホでネットスーパーに食料や生活用品を注文し、配達を受けるスタイルが浸透している。ただ、コロナ禍では個別の注文が受け付けられず、中国人の住民でも1日中、スマホで申し込みボタンを打ち続ける状態が続いていた。孫さんのグループチャットには数人の日本人が参加し、あっという間に数十人に膨れあがった。

 封鎖管理が始まって約2週間が過ぎ、孫さんは多くの日本人と連絡を取るようになった。マンションに「真心助け合いコーナー」を設置し、住民が多めに持っている物資を共有するようにしている。外出できない日々が続く中、自発的な助け合いの動きが、住民たちの心の支えとなっている。(c)東方新報/AFPBB News