【4月12日 AFP】ロシア軍との戦いの最前線ウクライナ東部から、青い病院列車が西へとひた走る。電気技師のエウヘン・ペレペリツァ(Evhen Perepelytsia)さん(30)は死の淵(ふち)から生還し、もうじき子どもたちと再会できることを喜んでいた。

「最悪の時は過ぎたと思いたい。いろいろ経験した後で、これからは良くなるんだと」。灰色の毛布にくるまって横たわり、そう語った。ペレペリツァさんは、先週末に東部から避難してきた負傷者と高齢の患者48人のうちの一人だ。列車は一晩の旅を経て、10日夕方に西部リビウ(Lviv)に到着した。

 東部からの避難列車は、8日にクラマトルスク(Kramatorsk)の鉄道駅がロシアのミサイル攻撃を受け、避難民ら52人が死亡してから初めて。国際医療援助団体「国境なき医師団(MSF)」が計画した病院列車としては、2月24日のロシア侵攻後4本目となる。

 ペレペリツァさんはルガンスク(Lugansk)州ヒルスケ(Hirske)の出身だ。夫婦で自宅を離れて西部にいる子どもたちの元へ行こうかと屋外で話し合っていたとき、すぐ近くで砲弾がさく裂し、破片で脚を切断する重傷を負ったという。

 座席を改造したベッドの端に腰掛けた妻ユリヤさん(29)は、夫がもう助からないのではないかと思ってとても怖かったと告白した。「集中治療中に2度も意識を失った」「脚はだめだったけれど、命は助かった」

 リビウでは、3人の子どもがその祖母と一緒に待っている。「私たちはもう戻らない」と語った。

 青い列車がリビウ駅に止まると、医療スタッフが自力で歩けない患者を担架で救急車まで運び、徒歩や車いすの患者を助けてバスに乗せるなどした。

 包帯で覆われた片目の痛みに耐えてバスの席にじっと座っていたプラスコビアさん(77)は、列車内での医師の対応を「素晴らしかった」と称賛した。ウクライナ人を中心に13人のスタッフが乗っていたという。

 ホームでは、病院列車のコーディネーターを務めるMSFのジャンクレマン・カブロル(Jean-Clement Cabrol)医師が一息つきながら、まだ助けを必要としている人がたくさんいると話した。

 1本目の病院列車は、侵攻初期にザポリージャ(Zaporizhzhia)へ向かい、ロシア軍に包囲された港湾都市マリウポリ(Mariupol)から逃げる際に負傷した3家族を乗せた。

 2本目と3本目は、クラマトルスクから高齢者を中心とする患者数十人を避難させた。駅が攻撃を受ける数日前のことだった。

 できるだけ多くの避難民を運ぶため、すぐに次の列車が出発するという。「私たちは今夜、引き返す予定だ」とカブロル医師は語った。

 映像は10日撮影。(c)AFP/Genya Savilov and Alice Hackman