【4月11日 東方新報】「ユーチューブ(YouTube)の音声版」ともいわれる中国の音声プラットフォーム「喜馬拉雅(Ximalaya)」は利用者が6億人を超え、中国社会に一気に浸透した。だが、収入は増えても黒字にならない経営状態が続き、株式上場にも苦戦している。

 喜馬拉雅は2013年にスマホアプリの音声サービスとしてスタート。ヒマラヤ山脈が名前の由来で、世界のトップを目指す意味が込められているという。音声ニュースや相声(漫才)、小説の朗読、音声ドラマなどが人気で、ビジネス界の著名人による財テク講座、語学講座、音楽のプレイリストなどもある。IT大手の阿里巴巴集団(アリババグループ、Alibaba Group)や百度(Baidu)をはじめ数千の企業が音声コンテンツを配信しており、まさにユーチューブのようにあらゆる分野のコンテンツが存在する。

 喜馬拉雅のダウンロード数は6億を超え、2021年の平均月間アクティブユーザー数は2億6800万人。売上高は2019年が26億9700万元(約528億4637万円)、2020年が40億7600万元(約798億6718万円)、2021年が58億5600万元(約1147億4539万円)と急激に業績を伸ばしている。売り上げの内訳は2021年で有料会員の会費が29億9000万元(約585億8756万円)、広告収入が14億9000万元(約291億9580万円)、ライブ配信の収入が10億元(約195億9450万円)となっている。

 ところが、収入は増えても一向に黒字にならない。損失額は2019年が19億2400万元(約376億9982万円)、2020年が28億8200万元(約564億7135万円)、2021年は51億600万元(約1000億4951万円)と赤字額も膨れ上がっている。

 喜馬拉雅はこれまでに9度の資金調達を実施。騰訊(テンセント、Tencent)や百度などのIT大手やオンライン教育、音楽・文学産業などから出資を受け、事業を拡大してきた。中国では「焼銭」というビジネス用語がある。紙幣を燃やすように赤字覚悟で巨額の投資をしてユーザーを獲得し、それから利益を回収する手法だ。喜馬拉雅もこれでもかとばかりに「焼銭」をしているが、黒字体質に改善しない。

 最近は喜馬拉雅に逆風も吹いている。音声サービスは電車や車の移動、昼休みなど「すき間時間のお供」的存在だが、コロナ禍によりステイホームやリモート勤務が増え、目で楽しめるショートビデオ投稿サイト「抖音(Douyin)」などの人気が高まっている。また、音声ドラマでは「耽美(ボーイズラブの意味)」「耽改劇(男性の友情を濃厚に描くブロマンスドラマ)」と呼ばれるジャンルが一大人気を誇っていたが、昨年9月に当局が「耽美などの不良文化を排除する」とインターネット業界に指示。有力コンテンツが打撃を受ける形となった。

 喜馬拉雅は2021年5月に米国での新規株式公開(IPO)を計画したが、米中関係の緊迫やデータセキュリティーに関する規制強化などから上場を見送った。同年9月には一転して香港証券取引所にIPOの申請書類を提出したが、今年3月上旬に進展がないまま書類の有効期限を迎えて「失効」扱いとなった。同社は3月末に新たな目論見書を公表し、香港上場に向けて再度挑戦している。激しく変動する中国のネット業界で、音声プラットフォーム界の巨人も模索を続けている。(c)東方新報/AFPBB News