【4月5日 東方新報】中国は今年中にも「人口減少時代」に突入する。既に多くの省・直轄市・自治区で人口減少が始まっている中、中国東部の浙江省(Zhejiang)は「大卒者で起業する人に最大50万元(約963万円)を貸し付け、失敗しても省政府がほとんど肩代わりする」などの大胆な政策を打ち出し、若い流入人口をひきつけるのに成功している。

 中国統計局によると、2021年の中国の出生数は1062万人。2019年は1465万人、2020年は1200万人で、激しいスピードで減少している。2016年にすべての夫婦に2人目の出産を認める「2人っ子政策」を導入し、昨年には「3人っ子政策」を打ち出したが、出生数減に歯止めがかからない。中国民政省によると、2021年の婚姻件数は763万組。件数は14年連続で減少しており、統計の公表を始めた1986年以降で最少記録を更新した。

 そもそも出産適齢年齢の女性人口が減少している上、高学歴化に伴う晩婚化、不動産・教育費の高騰による結婚への不安、生活が豊かになり「独身が楽しい」という意識の広がりなど、さまざまな要因が挙げられる。

 省別で最も人口が多く域内総生産(GDP)も1位の広東省(Guangdong)は、2021年の定住人口が前年比60万人増の1億2684万人。出生人口と死亡人口を差し引いた自然増が57万人を占め、なんとか人口増をキープした。GDP2位の江蘇省(Jiangsu)の定住人口は前年比28万人増の8505万人だったが、自然増加率は初めてマイナスに転じ、地元では大きな衝撃を受けている。さらに北京市、河南省(Henan)、河北省(Hebei)、江西省(Jiangxi)、甘粛省(Gansu)、内モンゴル自治区(Inner Mongolia Autonomous Region)などは定住人口そのものが減少した。

 一方、GDP4位の浙江省の定住人口は6540万人で、前年度比では広東省より多い72万人増となった。このうち自然増は6万5000人にすぎず、ほとんどが人口流入によるものだ。

 中国では人口バランスの観点から戸籍の移動には厳しい条件がつきものだが、浙江省は省都・杭州市(Hangzhou)の中心エリアを除き、専科(短大に相当)以上の学歴がある人への戸籍取得制限を撤廃。大学卒業生は杭州市中心エリアでも戸籍を取得できる。また、大卒者が省内で就職した場合は2万~40万元(約38万~770万円)の生活手当か住宅手当を与える。さらに、大卒者が起業する場合、10万~50万元(約193万~963万円)の貸し付けが利用でき、失敗しても10万元以下の貸し出しは省政府が肩代わりし、10万元を超える部分も80%を穴埋めする。

 このほか、大学生が家事サービス、介護、現代型農業の分野で起業する場合は10万元の起業手当を支給し、この分野に就職する大学生にも1人当たり年間1万元(約19万円)の就職手当を3年間支給。経済的に困難な家庭の大卒者には1人当たり3000元(約5万7759円)の求職・起業手当を支給する。

 浙江省人的資源・社会保障庁の陳中(Chen Zhong)副庁長は、「学生は貴重な人的資源。全国の大卒者は1000万人を超えており、我が省にとってチャンスと考えて大卒者の誘致に力を入れている」と説明する。

 浙江省はIT大手「阿里巴巴集団(アリババグループ、Alibaba Group)」発祥の地であり、創設者の馬雲(ジャック・マー、Jack Ma)氏は「失敗こそ起業家にとって最高の栄養」と強調している。若者の「失敗」を支える浙江省の取り組みは、優秀な人材確保と人口増加策として「成功」を収めていると言える。今後の人口増加が見込めない中、中国各地で若者の「誘致合戦」が活発になりそうだ。(c)東方新報/AFPBB News