【3月24日 東方新報】中国で広く信仰されている道教の女神・媽祖(Mazu)。航海の平安をつかさどる神として中国国内にとどまらず、世界各国に媽祖をまつる廟(びょう)がある。

 媽祖は北宋時代の960年、現在の福建省(Fujian)沿岸の湄州島に生まれた実在の女性。本名は林黙(Lin Mo)で、生後1か月間、泣き声を上げなかったため「黙」と名付けられたという。言い伝えでは神通力で病を治し、吉兆を予知し、海の安全を守ったとされる。28歳で修行を終えて天に召されると神としてあがめられ、その後も海で遭難した人を救助するため現れたという。

 媽祖は次第に航海の無事を守るだけでなく、自然災害や疫病から人々を救う護国救民の女神として中国全土で信仰され、宋、元、明、清といった歴代王朝の皇帝が「天妃」「天后」「天上聖母」などの称号を贈っている。

 媽祖信仰は早くから海外にも伝わった。湄州島から南へ約100キロに位置する福建省泉州市(Quanzhou)は宋の時代から栄えていた国際貿易港。外国の商人、旅行家、宣教師らが長期滞在し、今もキリスト教やイスラム教、ヒンズー教などの遺跡が現存する。また、福建地方は高度な造船技術と優れた乗組員が集まり、中国から海外へ旅立つ多くの船舶の起点となった。こうした「海のシルクロード」の往来を通じて、媽祖信仰は世界各地へと広がっていった。

 湄州島媽祖廟董事会の林金賛(Lin Jinzan)董事長は「私たちが長年調査した結果、媽祖は少なくとも世界5大陸の47か国でまつられている」と話す。内訳はアジア19か国、欧州8か国、南北アメリカ8か国、アフリカ6か国、太平洋6か国とまんべんない。日本でも九州・沖縄で信仰が広がり、横浜中華街にも媽祖廟がある。

 昨年10月には、西アフリカ・ナイジェリアの最大都市ラゴスに媽祖廟が建てられた。「コロナ禍で中国に戻ることもできない」という現地の華僑らの声に応え、湄州島媽祖祖廟董事会らが協力して廟を建立した。信者らは線香をたいて媽祖像の前で両手を合わせ、女神がコロナ禍を取り除いて世界の民を救うよう祈りを込めている。(c)東方新報/AFPBB News