【3月23日 AFP】ウクライナに侵攻したロシアに対し、日本政府は長年の慣例を破り、厳しい対応に出た。専門家は、アジアで影響力を増す中国に対峙(たいじ)する日本の防衛政策が、ウクライナ危機によって一変する可能性があるとみている。

 ロシアが2014年、ウクライナ南部クリミア(Crimea)半島に侵攻した際、日本の対応は手ぬるいと見なされた。だが、今回は西側諸国と歩調を合わせてロシアに前例のない制裁を科し、厳しく非難。ウクライナに対しては、殺傷能力のない防衛装備品の提供にまで踏み込んだ。

「日本はこれまで、危機に際して金は出すが直接の関与は行わないと批判されてきた」と、仏シンクタンク「戦略研究財団(FRS)」のバレリー・ニケ(Valerie Niquet)アジア研究主任は語った。

 ニケ氏は、今回、日本政府は「行動することに重点を置いている」と指摘。「事態の推移を傍観しているだけではないことを示そうとしている」と話した。

 米シンクタンク「アメリカ進歩センター(CAP)」のトビアス・ハリス(Tobias Harris)上席研究員は、ロシアの個人を対象とする制裁などの措置を日本がスピード感を持って打ち出したことについて「日本政府がこれほど迅速に動くとは思っていなかった」と、驚きを隠さない。

 背景としては、今回のウクライナ危機が極めて特異な事態だという点に加え、対ロ関係の強化を推進していた安倍晋三(Shinzo Abe)氏が既に首相を退いていることなど、幾つかの重要な要因が挙げられる。

■中国の存在

 日本にとって、より差し迫った大きな問題は、台湾の「統一」や尖閣諸島(Senkaku Islands)の領有権を主張し、アジアで影響力拡大を図る中国だ。

 テンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)のジェームズ・D・J・ブラウン(James D.J. Brown)准教授(政治学)は、日本政府はこれまで、ロシアへの対応を強めれば、中国に接近させることになりかねないと危惧していたと指摘する。

「しかし、今やそうした考えは全く通用しない」と、ブラウン氏はAFPに語った。逆に、「日本はロシアに厳しく対応せざるを得なくなった。甘い対応だとそれが前例となり、中国に(ロシアと)同じことをしてもいいのだと思わせる余地を与えてしまいかねないからだ」と説明した。

 日本は今年末までに改定予定の「国家安全保障戦略」で、対ロ方針を全面的に見直すとみられている。「間違いなくロシアは脅威と表現されるだろう」と、ニケ氏は述べた。