【3月11日 AFP】ウクライナの隣国モルドバで、ロシアの次の標的は自国ではないかとの不安が広がっている。モルドバは30年前にロシアの支援を受けた分離独立派との紛争を経験しており、人々はウクライナ情勢を見守りつつ当時を思い出して胸を痛めている。

 ウクライナとの国境の町パランカ(Palanca)で、押し寄せるウクライナ難民にコーヒーや茶を配るボランティアをしているアレクシオ・マテエフ(Alexio Mateev)さん(23)は、「誰もが怖がっている」とAFPに語った。

 緊張の高まりを示すかのように、欧州の最貧国の一つであるモルドバは、西側諸国から異例の注目を集めている。2日には欧州連合(EU)の外相に当たるジョセップ・ボレル(Josep Borrell)外交安全保障上級代表、先週末にはアントニー・ブリンケン(Antony Blinken)米国務長官が訪れた。

 ボレル氏は首都キシニョフで2日、マイア・サンドゥ(Maia Sandu)大統領と共同記者会見し、紛争の引き金になりかねない「国境の不安定化」に懸念を表明した。

 親欧米政策を掲げて2020年に当選したサンドゥ大統領は、キシニョフでも「国境を越えて爆撃の音が聞こえる」として、「モルドバの安全保障リスクは深刻だ」と述べた。

■紛争の記憶

 キシニョフから東に約80キロのトランスニストリア(Transnistria)地域では、1990年に多数派のロシア系住民が「沿ドニエストル・モルドバ共和国」の分離独立を宣言したが、国際的には承認されていない。

 1991年にロシア軍の支援を受けて政府軍との紛争になり、92年に停戦協定が成立した。ロシアは今も駐留軍を維持し、約2万トンの弾薬を保有している。

 モルドバ政府は長年ロシア軍に撤退を求めてきたが、徒労に終わっている。

 ロシアのウクライナ侵攻を受けて、モルドバでは多数の死者を出したトランスニストリア紛争のつらい記憶を思い出す人が少なくない。

 アレクサンドル・タナセ(Alexandru Tanase)元法相は「ウクライナが陥落すれば、ロシアはモルドバを片付けにかかるだろう」とフェイスブック(Facebook)に投稿。「クレムリン(Kremlin、ロシア大統領府)には、かいらい政権のための名簿がある」と確信していると主張した。

■ハイブリッド攻撃

 シンクタンク「ウオッチドッグ(WatchDog)」のアナリスト、バレリウ・パシャ(Valeriu Pasa)氏によると、モルドバ人は隣国ルーマニアのような北大西洋条約機構(NATO)加盟国としての安全保障がないことを知っているという。

 パシャ氏は「すべては現場の状況次第だ。特にロシアが(ウクライナ南西部の港湾都市)オデッサ(Odessa)周辺を占領すれば、モルドバは危険にさらされる」との見解を示した。

 パシャ氏によれば、モルドバはすでにEUに接近したことへの報復として天然ガス供給量を削減されるなど、ロシアの「ハイブリッド攻撃」の標的となっている。

 一方、今回の危機でEUがウクライナに門戸を開くことになれば、モルドバにとっても好機となる。3月初め、欧州議会(European Parliament)はロシアの「侵略」を非難する決議を圧倒的多数の賛成で採択し、ウクライナのEU加盟申請を支持した。モルドバも3日、EU加盟を正式に申請した。

 サンドゥ大統領は申請について「ある種の決断は迅速かつ断固たる形で行われなければならない」と述べた。(c)AFP/Mihaela RODINA