【3月6日 東方新報】中国・四川省(Sichuan)アバ・チベット族チャン族自治州(Ngawa Tibetan and Qiang Autonomous Prefecture)で生まれたチベット族の女性、雍忠卓瑪(ヨンゾンチュオマー)さんは10歳の時、事故で右腕を失った。残った左手で好きな絵を描き続け、チベット自治区(Tibet Autonomous Region)ラサ市(Lasha)の博物館で2月23日、初の個展を開いた。

 1988年に中国五大草原の一つ、ゾルゲ大草原で生まれた彼女は、子どもの頃から絵を描くことが好きだった。祖父の自宅にはチベット文化の絵画「タンカ(唐卡)」が飾られ、その滑らかな線と豊かな色彩に魅了された。お小遣いで画材を買っては、一筆ごとの感触を楽しんでいた。

 それだけに事故で右腕を失った時は「長い間、心を閉ざしました」と大きなショックを受けた。それでも、病床で左手を使い、絵を描き始めた。「絵筆を持つと、マイナスの感情が解き放たれ、自分に自信が持てるようになりました。絵を描くことで、私は生活に色を取り戻したんです」。彼女にとって絵画は単なる趣味でなく、癒やしと希望の源となった。

 2014年に四川美術学院(Sichuan Fine Arts Institute)を卒業後、単身ラサに渡り、タンカの芸術学校に通った。平日は朝から晩まで学び、週末はアルバイトで絵を描いて生活費を稼いだ。「1人で家に一週間こもって絵を描いていても飽きない」というほど絵の世界に没頭した。

 7年にわたるラサの生活で実現した初の個展では、タンカ、油絵、水彩画、鉛筆画など80点を展示。笑みを浮かべる親子、動物と触れ合う少女など温かみのある作品が並ぶ。「強壮」と題した作品は、絵の中に描かれた人物の右手が樹木となり、太い枝が空に向かって伸びている。「手を木に例えて、生命力の強さを表現しました」。個展は3月14日まで開かれ、来場者は優しさと力強さを兼ね備えた彼女の作品に見入っている。

 中国で女性のタンカ画家は数少ない。「女性ということで制約を感じたことはありません。現代は女性にもチャンスは与えられている。自分で限界を決めず、夢を追いかけ、自分の人生に価値があることを実感したいと思っています」。そう言って彼女はほほ笑んだ。(c)東方新報/AFPBB News