【3月2日 東方新報】若い優秀な研究者が集まり、多くの世界的IT企業が本社を置いていることから、「中国のシリコンバレー」と呼ばれる中国南部の深セン市(Shenzhen)。北京市、上海市、広州市(Guangzhou)と並び中国で最も活気がある都市だが、深セン市不動産仲介協会によると、1月31日から2月6日までの春節(旧正月、Lunar New Year)の連休中、市内の不動産取引は新規物件がゼロ、中古物件が1件のみとなり、不動産業界に衝撃を与えている。

 ある中古不動産業者は「春節連休中の1週間、客と話したのは5分だけ。今年は新型コロナウイルス対策で、帰省を控える『現地で年越し』が奨励されていたので、深セン市に残った人が少しは来るかと期待したんだが…」とため息をつく。

 深セン市の不動産市場は昨年から急激に勢いを失っていた。特に中古物件の低迷が顕著だ。2021年に販売された中古住宅は前年比57.3%減の4万699戸。過去15年間で最低記録となった。また、今年1月に販売された中古住宅は1557戸。前年比75%減というありさまで、過去10年間で最低戸数だった。中古物件はセカンドハンドという意味で「二手(Ershou)」と呼ばれ、貯金より投資を好む中国では投機対象に選ばれる。景気のバロメーター的役割も果たしているだけに、この状況は深刻だ。

 背景としては、深セン市に拠点を置く不動産開発最大手「恒大集団(Evergrande Group)」の債務危機の影響のほか、深セン市の不動産価格抑制策が挙げられる。深セン市は昨年2月、全国に先駆けて中古マンションの「指導価格」を設定。販売価格が指導価格より高い物件に対する銀行の融資を制限した。住宅販売価格の管理を図ったものが、市場の低迷にもつながった。

 前述の不動産業者は「市内の不動産業者は次々と閉店し、レストランを起業したり、中古車販売に転職したりしている。失業した従業員はフードデリバリーをしている」と明かす。ある不動産店の従業員は「仕事を終えた後、個人タクシーをして午前1時まで働き、朝8時に出勤している。景気が良い時は年収30万元(約548万円)以上あったが、今はアルバイトを足しても月に4000~5000元(約7万2902~約9万1127円)程度」と嘆く。

 不動産業界からは悲鳴が聞こえるが、それでも「不動産バブル」の行き過ぎを抑えるため、やむを得ない面がある。深セン市内では、80平方メートルのマンション価格が1000万元(約1億8226万円)を超えるなど、一般市民では購入できないレベルに高騰していた。コロナ禍で多くの業界が低迷した時期、不動産に投資が集中したため全国で価格が上昇し、各都市とも価格抑制策に取り組んでいる。とりわけ価格が跳ね上がった深セン市は荒療治も必要で、深セン市の不動産事情は中国の現状を象徴していると言える。(c)東方新報/AFPBB News