【2月11日 AFP】ロシア革命家ウラジーミル・レーニン(Vladimir Lenin)の胸像や文化センター、国家保安委員会(KGB)の事務所──かつて北極圏における旧ソビエト連邦の前哨基地だったピラミデン(Pyramiden)は、時代遅れの奇妙な場所に見えるかもしれない。だが、温暖化の影響が広がる北極圏での覇権を狙うロシアにとっては重要な地となっている。

 ロシアは北極圏開発を戦略的優先事項とし、大型原子力砕氷船団によって他国を圧倒しようとしている。炭鉱集落だったピラミデンには、北極圏の奥地に位置するノルウェー領スバルバル(Svalbard)諸島にロシアの足場を確保する役割がある。

 北大西洋条約機構(NATO)加盟国のノルウェーは、1920年のパリ条約(Treaty of Paris)でスバルバル諸島の主権を得た。しかし、鉱物資源の探査・開発権は、ソ連を含むすべての条約調印国に平等に与えられた。ロシアは31年、同諸島で石炭採掘を開始。60~80年代には、ピラミデンのロシア人人口1200人にまで増えた。

「鉄のカーテン(Iron Curtain)」の西側にあったピラミデンは、ソ連の力や文化、自給自足性を知る機会を提供する存在だった。しかし、ソ連が崩壊するとピラミデンの炭鉱は業績が悪化。98年に閉山となり、鉱山関係者は町を去った。

■未来への希望

 ピラミデンは、ゴーストタウンに見える。住んでいるのはホテルを経営する一握りのロシア人と、観光客が出くわす恐れのあるホッキョクグマだけだ。

 しかし、閉山して長い年月がたったにもかかわらず町の建物は一つとして取り壊されておらず、ソ連時代の全盛期をうかがい知ることができる。

 何十年も風雨にさらされて、なお頑丈な建物の中は、まるで時が止まっているかのようだ。

 事務所の棚には鉱石の瓶が並び、壁にカレンダーが掛かっている。KGBの事務所は強固な扉に守られ、デスクの上には炭鉱作業員の名簿が開いたままの状態だ。学校の教室には子どもたちの絵が飾られ、教卓にはコップがそのままになっている。

 サンクトペテルブルク(St. Petersburg)にある北極南極研究所(AARI)のユーリー・ウグリュモフ(Yury Ugryumov)氏は、ピラミデンについて「放棄したのではなく、一時的に保留しているだけだ」とAFPに語った。

 ロシアは今、ピラミデンの観光・研究開発を進めており、氷河学者、水文学者、海洋専門家らを呼び寄せている。ロシア北極探検隊を率いるウグリュモフ氏は、「ここには興味深い未来への希望がある」と話した。(c)AFP