【12月29日 東方新報】知人とLINE(ライン)などでメッセージをやりとりする際、絵文字を使うことは当たり前となっている。中国では近年、その絵文字の意味について裁判で争われるケースが出ている。

 安徽省(Anhui)太和県(Taihe)の裁判所では2020年、中国版LINE「微信(ウィーチャット、WeChat)」の絵文字の意味が民事裁判で証拠申請された。借金を巡るトラブルで、金を貸した側の張氏が借りた側の閻氏に貸付金の明細書を微信に送り、閻氏が絵文字で「OK」と返信をした。張氏はこれを「こちらの請求を承諾した」と判断したが、閻氏は「メッセージの内容に同意したわけではない」と反論。裁判所は判決で、「張氏が提出したウィーチャットのメッセージに閻氏は同意しておらず、支払うべき金額の証拠としては使えない」と退けた。

 広東省(Guangdong)深セン市(Shenzhen)では、賃貸トラブルで絵文字の意味が争われた。不動産のオーナーが契約期間を終えた借り主に家賃の増額を再三提示したところ、借り主は同意するとも退去するとも示さず、「太陽」の絵文字だけのメッセージを返信。これをオーナーは「家賃の増額に同意した」と判断し、借り主は「法的根拠がない」と反発した。深セン市の裁判所は「借り主は家賃の増額に合意したものとみなし、契約終了後の相当の家賃を支払う必要がある」と判断を下した。

 刑事事件でも絵文字が証拠として採用された。浙江省(Zhejiang)杭州市(Hangzhou)の中級人民法院(日本の地裁に相当)は2020年、ある組織売春事件の判決で、「劉(Liu)被告は祝(Zhu)被告に笑顔の絵文字などを使い、売春で稼いだ金額をメッセージで報告していた」と認定した。

 中国ではこうした判決が出るたびに「絵文字が裁判の証拠になる!?」と話題になるが、上海財経大学(Shanghai University of Finance and Economics)法学院の胡凌(Hu Ling)副院長は「ほとんどの裁判で、絵文字は補強的な証拠として登場するだけで、決定的な役割を果たしていない」と指摘。その上で「意味があいまいな絵文字をどのように解釈するかは、インターネット時代の司法の課題と言える」と述べている。

 弁護士の葛樹春(Ge Shuchun)氏は「忙しい現代社会では、相手のメッセージをしっかり読んでいない場合でも、礼儀として絵文字を使って返信することは珍しくない。絵文字を裁判の証拠にすることは、最終的には裁判官の主観や推測任せになってしまう。刑事事件では隠語として絵文字を使うことはあるが、包括的な証拠が必要であり、絵文字だけで判断してはならない」と話している。

 中国メディア「中国青年報(China Youth Daily)」が全国の大学生4351人にアンケートしたところ、87%が「メッセージでよく絵文字を使う」、10%が「ときどき使う」と回答している。知人とのコミュニケーションにメッセージを使うことが当たり前となり、絵文字も一種の「言語」として使用することが増える中、裁判で意味が争われるケースは今後も増えそうだ。(c)東方新報/AFPBB News