■MITやハーバードより難しい入試

 IT産業の総本山シリコンバレー(Silicon Valley)で要求されるのは、高度な専門技術、多様性に富む集団を管理する能力、そして経営陣を納得させる「起業力」だ。

「何かを改革するためには、あえてルールを破る技量がなくてはなりません。恐れずに」と語るのは、インド系米国人のIT起業家で研究者でもあるビベック・ワドワ(Vivek Wadhwa)氏だ。「ルールを一つや二つ破る、あるいは官僚の無能さや腐敗に対処するなどができなければ、インドでは一日たりともやっていけません」。そうしたスキルが、シリコンバレーでは非常に有益だと言う。

 インド全国に計23校のキャンパスがあるIITは、同国最高位の大学と見なされている。毎年1万6000人の定員に対し、100万人以上の学生が出願する。入試のために週7日、毎日14時間勉強する受験生もいる。

MIT(マサチューセッツ工科大学)やハーバード大学(Harvard University)よりも10倍難しい入試を受けると想像してください。それがIITです」とワドワ氏は言う。

■インド最大の輸出品目?

 IITは1950年、インドの初代首相ジャワハルラール・ネルー(Jawaharlal Nehru)氏が創設した。目指したのは、1947年に英国から独立した同国の国家建設を支える理工系人材の輩出だ。

 しかし、技術者の供給に見合う国内需要がなく、卒業生は国外、特に米国に目を向けた。

「90年代に入っても、インドの産業は先進的な水準に至らず(中略)最先端の技術に携わりたいと考える人の多くが、国外に行く必要性を感じていた」とIITボンベイ校のS・スダルシャン(S. Sudarshan)副学長は語った。

 米国では長年にわたり、IT技術者など専門職向けのH1-Bビザに応募する半数以上がインド人で、しかもほとんどはテクノロジー部門だ。

 一方、インドよりさらに人口が多い中国の技術者には、急成長する自国で仕事を見つけるか、米国で大学院課程を修了してから帰国する選択肢があると、米ジョンズ・ホプキンス大学(Johns Hopkins University)のデベシュ・カプール(Devesh Kapur)教授は指摘する。同教授もIITの卒業生だ。

 インドからの頭脳流出は、国内のIT部門が発展するにつれていずれ減少し、エリート層は国内でも就労機会を得られるようになるだろう。しかし、間もなくIITを卒業し、グーグルに就職するナンガオンカーさんにとって、アグラワル氏やピチャイ氏のようにIT企業のトップに就くことは現実離れした話ではない。

「あり得ないことではないでしょう?」とナンガオンカーさん。「夢は大きく持たないと」 (c)AFP/Glenda Kwek with Joshua Melvin in Washington