【12月16日 東方新報】中国で電気自動車(EV)の販売増加に伴い、リチウム電池の材料である炭酸リチウムの価格が高騰している。「リチウムを制するものが市場を制す」とばかりにリチウム資源の獲得合戦が過熱。世界最大の自動車市場である中国は炭酸リチウムの約7割を輸入に頼っており、中国の動向は世界の需給バランスにも影響を与えそうだ。

「今のリチウム価格は異常と言うしかない」。中国企業の江蘇容匯通用鋰業(General Lithium)の李南平(Li Nanping)会長は悲鳴を上げる。昨年11月に1トン当たり4万元(約71万円)だった国内のリチウム価格は今年11月に19万元(約339万円)台に高騰。12月には20万元(約357万円)を超えた。

 中国自動車工業協会によると、1~10月の新エネルギー車の販売台数は254万2000台で前年同期の1.8倍。自動車業界全体の販売台数が伸び悩む中、新エネルギー車は右肩上がりで、リチウム電池の材料となる炭酸リチウムの需要は高まる一方だ。

 中国全国乗用車市場情報連合会の崔東樹(Cui Dongshu)事務局長は「国内のリチウム資源は西部に集中しており、採掘のインフラ環境が整っていない」と話す。このため、中国企業は海外のリチウム資源獲得に躍起となっている。

 中国のリチウム製品メーカー大手の贛鋒鋰業(Ganfeng Lithium)は7月、子会社を通じてカナダのリチウム資源開発会社ミレニアル・リチウム(Millennial Lithium)に約3億5000万カナダドル(約310億2050万円)で買収を持ちかけた。ミレニアル・リチウムはアルゼンチンに世界有数のリチウム埋蔵量を誇る塩湖を2つ保有している。すると中国の車載電池最大手、寧徳時代新能源科技(CATL)は9月、価格を上乗せしてミレニアル・リチウムの株式を約3億7700万カナダドル(約334億1351万円)で取得し、交渉を中止する贛鋒リチウムへの違約金1000万ドル(約11億3610万円)もCATLが負担すると申し入れた。これで決着すると思われたが、さらにカナダのリチウム生産企業リチウム・アメリカズ(Lithium Americas)が11月に約4億ドル(約454億4400万円)でミレニアル・リチウムを買収すると表明。4か月にわたる「横取り合戦」に決着がついた。

 これと別に、中国の国有鉱業大手の紫金鉱業集団(Zijin Mining Group)は、アルゼンチンのリチウム資源開発プロジェクトの独占開発権を持つカナダ企業ネオ・リチウム(Neo Lithium)の株式を約9億6000万カナダドル(約850億7520万円)で買い取り、買収するとしている。世界のリチウム資源市場は、米アルベマール(Albemarle)、チリSQM、中国の贛鋒鋰業、天斉鋰業(Tianqi Lithium)の4社が70%のシェアを占めている。寡占状態が強い中、リチウム資源の「奪い合い」はまだまだ続くのは確実だ。

 世界的にリチウム資源が不足している一方、中国政府は2035年までに国内の新車をすべて新エネルギー車などの環境対応車に切り替えようとしており、さまざまな優遇措置を取っている。北方工業大学(North China University of Technology)自動車産業創新研究センターの張翔(Zhang Xiang)研究員は「中国で新エネルギー車の保有台数は700万台を超え、今後も増えていくのは確実だが、現時点で量産化できる電池はリチウムしかない」と指摘。中国の自動車業界は半導体不足に悩まされているが、リチウム価格の高騰にも直面する「二重苦」を迎えている。

 また、張翔氏は「リチウム電池が普及する一方、使用済みリチウム電池のリサイクルが技術的にも採算的にも追いついていない。政府の補助金がなければほとんど利益にならず、現在どれだけリサイクルされているか業界のデータもない」と問題点を挙げる。さらに「使用済みリチウム電池の多くが廃棄され、環境汚染や発火事故を引き起こす可能性がある」とし、政府や業界あげての早期の対策が必要と呼びかけている。(c)東方新報/AFPBB News