大阪の旧遊郭「鯛よし百番」 保存修復プロジェクト始動
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【12月19日 AFP】大阪の歓楽街・飛田新地(Tobita-Shinchi)の一角に、ひときわ目立つ建物がある。約100年前に建てられた旧遊郭「鯛よし百番」だ。今、その保存修復プロジェクトが進められている。
遊郭として使われなくなってから数十年。現在は料亭として営業する木造2階建ての建物は、色街のイメージが強いこの一帯の象徴的な存在だ。専門家によると、大正時代の建築物が大きな建屋として残っている珍しい例だという。
建築史家である大阪府立大学(Osaka Prefecture University)の橋爪紳也(Shinya Hashizume)教授は「100年ほど前の日本の和風建築は、空襲あるいは大きな火災で相当燃えている」と話す。「戦前からある遊郭建築は非常に少ない」と言う。
鯛よし百番に多数ある和洋折衷式の宴会部屋は、繊細なふすま絵や、天井や欄間、壁の彫刻や絵付けといった意匠が凝らされている。
「絵が建物の一部としてある。そういうところがここは素晴らしい」と、修復に携わる建築家の六波羅雅一(Masakazu Rokuhara)氏は語る。
夜になると2階の軒下からつるされた赤ちょうちんが、朱塗りの欄干を優しく照らし、ノスタルジックな雰囲気を醸し出す。
だが昼の日の下では、玄関の看板は塗りが剥げてひびが入り、修復が急務なことが見て取れる。
鯛よし百番は、その歴史的意義から国の登録有形文化財に指定されているが、公的資金による保全は行われていない。所有者は以前から修復を計画していたものの、新型コロナウイルスの流行で料亭が休業や時短営業を余儀なくされる中、資金不足に陥った。
そこで地元の不動産業者や町おこし関係者が集い、クラウドファンディングで1500万円の資金を募ることにした。
1957年に売春防止法が施行される前の飛田新地は赤線地帯だった。鯛よし百番も遊郭だった歴史ゆえに、クラウドファンディングでは難しい面もあったという。
今日でも飛田新地では、若い女性が怪しげな照明の中に座り、通りをゆく男性に視線を投げる。
プロジェクトメンバーの四井恵介(Keisuke Yotsui)氏は「マイナスの面を気にして、どうしてもクリックできなかった、お金を入れられなかったという女性の声も聞いた」とAFPに語った。
それでも、8月までに約1900万円が集まり、この秋には修復作業が始まった。
「それは負の歴史でもあるし、それを改善しようとしてきた歴史でもある。その象徴的なもので今残っているのはこの建物だけ」だと、橋爪教授は話す。
四井氏は「10年後、20年後には普通の街になっているかもしれない。それでもこの街の歴史が感じ取れるような場所の一つとして、きっちり残していくのが大事なことではないか」と語った。(c)AFP/Harumi OZAWA