【12月11日 東方新報】中国の考古学界で、遺跡を市民に公開したりボランティアを募ったりする取り組みが活発になっている。専門家が自分たちの狭い世界にとどまらず、市民に積極的に近づこうとしている。

 中国では1990年代まで、自治体が都市開発を優先し、歴史遺跡を保護する意識が低い地域が少なくなかった。遺跡の墓荒らしや文化財の流出も横行。考古学者たちは自分たちが受け持つ遺跡の調査・収集・保存を粛々と行い、市民にアピールする発想が乏しかった。

 その流れが変わるきっかけの一つが「三国志」の英雄、「曹操(Cao Cao)の墓」論争だった。2009年、河南省(Henan)文物局は同省安陽市(Anyang)で見つかった後漢末期の墓が魏王・曹操の墓だと認定。墓の特徴や「魏武王」と刻まれた石枕が出土したことなどを根拠とした。ところが調査に関わっていない考古学の専門家が「断定は時期尚早」と疑義を唱え、有名な古物鑑定家の馬未都(Ma Weidu)氏は「『魏武王』の石枕などは今回発掘されたものではなく、盗掘者から押収されたものだ」と主張。メディアやインターネットでは「曹操でなく家臣の夏侯惇の墓だ」など諸説飛び交う論争が巻き起こった。

 最終的には2010年に「曹操高陵(曹操の墓)であることは確実」と結論づけられたが、社会を巻き込んだ論争は「高陵現象」と呼ばれ、専門家の結論を世論がそのまま受け入れない事態に考古学者たちが衝撃を受けた。北京大学考古学・文化研究学部の奚牧凉(Xi Muliang)博士は「当時、考古学者は自ら市民に向き合わなければならないと考えるようになった」と振り返る。

 中国考古学会は2014年、「公共考古学専門運営委員会」を設立。考古学の活動に市民を積極的に参加させる取り組みが本格化した。山西省(Shanxi)考古学研究所は遺跡の発掘調査をボランティアに開放。学生やさまざまな職業の市民が専門家と肩を並べた。シルクロードの遺跡が多い甘粛省(Gansu)では、古代都市遺跡や石窟寺院などを巡るサマーキャンプやスタディーツアーを行っている。北京市は今年9月、北京原人にまつわる周口店国家遺跡公園で、「第1回北京公衆考古学シーズン」を開始。漢代の埋葬群など市内の遺跡を巡り、学習する企画を2か月にわたり行った。

 今年3月には、四川省(Sichuan)広漢市(Guanghan)の三星堆(Sanxingdui)遺跡から3000年前の黄金仮面が見つかったと発表され、市民の考古学への関心が一気に高まっている。各博物館は、発掘作業を疑似体験できる「考古学盲盒(ブラインドボックス、Blind Box)」を発売。箱の中に入った土を小型スコップで掘り起こし、文化財のレプリカを発掘するもので、最初に売り出した河南省博物院(Henan Museum)では1か月に1万個売れる人気ぶりだ。

 中国では高度経済成長により生活レベルが向上し、若者を中心に愛国意識が高まり、自国の歴史・文化への関心が強まっている。2019年末時点で全国に博物館は5535館あり、前年より181館増加。2日に1館のペースで博物館が誕生している。来場者がただ展示物を眺める「ショールーム」形式でなく、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)技術を導入するなど、双方向性を重視した工夫をこらしている。(c)東方新報/AFPBB News